侵略否定で空幕長更迭
防衛省の田母神俊雄航空幕僚長が、過去の中国侵略や朝鮮半島の植民地支配を正当化して「わが国が侵略国家だったなどというのはまさにぬれぎぬ」と主張し、政府の憲法解釈で禁止されている集団的自衛権行使や「攻撃的兵器」の保有解禁も事実上要求する論文を31日、発表した。
自衛隊の内部状況が良く現れている。田母神氏の思想がどちらかといえば、自衛隊の内部の一般的な傾向と考えた方がいい。自衛隊の総点検を行わなければ、ならない事態であろう。軍隊というものは、必ずこうした自己肯定的な思考を持ちがちなものだと思う。身体で覚えてゆくような仕事というのは、田母神氏のような自己陶酔型の思想を持ちがちなものだ。相撲部屋の思想傾向を想像すると、何となくわかる。私は高校時代の運動部の中で体験した。自分たちが過去不当な侵略戦争に手を染めた。こういう考え方をかかえて、軍隊の肉体訓練などできるものではない。自分たちが神国日本を守る。あるいは、国民の為に自己犠牲の精神を発揮している。あるいは、日本国家を完全無欠なものとして、周囲に悪の侵略国家を想定する。あるいは、何処の国家にも負けない軍事力を装備するのだ。こんな思いをかかえている人が多数居るはずだ。
思いを育てるのは、人間なら当然の事として考えておいた方がいい。そう考えた上で、自衛隊を持つなら、どう制御するか。可能なのかも含めて検討の必要がある。それがよく言われる、シビリアンコントロールの本質だろう。もちろん制御など出来ないから、持たないに越したことはない。私はそう思っている。しかし、現状巨大な軍隊が存在している。このレベルで、一応維持してゆくというのが、国民の今のところの多数意見である。そうである以上、自衛隊の徹底管理を考えないと、大変な危機に国民を陥れることになる。日本の経済状態は悪くなってゆくだろう。悪くなれば、その捌け口を求める空気が蔓延する。そのとき、日本の進出企業に対して、不当な殺戮などが起きたとする。どう反応するか。イラク派兵の自衛隊の隊長なら、駆けつけて軍事力を行使する。この事態を待っている人も居ると言う事だ。
田母神氏の歴史観の正当性は問題ではない。公務員の立場という物を理解していない人間が、自衛隊の長に存在していると言う不安だ。自衛隊は内部には、精神的ストレスが渦巻いているに違いない。隊員が訓練と称した、集団暴行まがいの行為で死亡した。弱い物に対する、いじめが横行していると思わなければならない。自殺者が多数存在する。悪い報道があるたびに、隊員の気持ちはすさんでゆくことだろう。田母神氏は、以前、イラク空輸活動を違憲とした名古屋高裁判決について「そんなの関係ねえ」と発言した。同根ではないだろうか。関係がない発言は政府内部でも相次いだ。法事国家である以上、司法の判断が関係が無い訳がない。不都合な判決があれば、尊重しないという政府の姿勢が、空幕僚長の職務態度にまで及んでいたと言う事だろう。法遵守が大前提の自衛隊の責任者が、こんな発言をした時に軽視した結果が、ここまでやれると思わせたのだろう。ここまで言わないと納まらない気分が内部に存在する。
次に来るのは実力行使だ。もううずうずしている隊員は山ほど居るに違いない。上のものがこの発言だ。犠牲にしてはならないなど、思いを深めている人間も居るに違いない。思想信条は自衛隊員も、全くの自由であるべきだ。統制などしていい結果が出るわけがない。うずうずしながら、武器を保持している。この精神状態を考慮しておかなければならない。退任間際に成ると、こうした持論を展開する自衛隊幹部は以前から後を絶たない。田母神氏の論文は読ませていただいた。ここではその内容については、触れない。書かれた内容の正否ではなく。空幕僚長という立場の者が、政府見解に反する議論を、あえて、公開して居ることが気掛かりなのだ。その背景にある、見逃せない精神状態が不安なのだ。