健康オタク

   

おととい熱海の温泉に行った。小学生の時の同級生と行った。随分長い付き合いになる。50年近いわけだ。会うと彼の話は必ず、身体を鍛える話になる。それも当然と言うぐらいの、柔道家だ。高校の時には全国大会で、準決勝まで行った。そのときに足の指を折ったそうだ、無理して試合に臨んだ。そのため優勝は出来なかった。その後も大学の柔道部へと望んだが、その怪我の事もあって、行かなかった。その後スナックを経営した。正真正銘ほとんど寅さんのようだった。若い女性の中には、結婚するなら寅さんみたいな人を、などと口ではいう人もいるが、案の定結婚できずに。50を過ぎた。何度も見合いをしたり、そんな話もあったが、何やかやで上手く行かなかった。ラジオでこんなおかしな人がいる。と言うのが流れて、聞いていたら、彼の事だった。

おかしな逸話は小説にしたいほどあるのだが。実は今は私のいとこと結婚しているので、書く訳にもいかない。この結婚話は、故あって進めたのだが、上手く行く訳がないから止せ。と非難もあった。又とない組み合わせと思って、進めて、上手く行っている。私のいとこだからという訳ではないが、一風変わっている。どう変わっているかは差しさわりがあるので、さらに書けない。しかし、健康オタクの同級生は、驚異的に我慢強い。逸話の一つ。スナックをやっていた頃、スナックにメカジメ料とか言うの集めに、K大の元空手部という3人が来たそうだ。払わないと言うと、ちょっとそこまで来いというので、付いてゆくと、散々殴る。そこで、随分殴ったが、手を出したのはお前達だぞ。と静かに確認した。何をそんなことをまだ言うか。と言って又殴りかかった。その手を取って、思いっきり、一本背負いに地面に叩きつけた。そのまま巨漢は気絶。他の2人が引きづって逃げた。散々殴られても、彼は怒るような事はない。我慢が彼の一番の美学なのだ。

その我慢がいまや、健康にむかった。アチコチの学校の柔道部。警察の柔道場に、彼は出かけては、身体を鍛える。無理をして、今でも怪我をする。それでも我慢して、稽古をする。子供達に馬鹿にはされても、指導するなどと言う事はない。子ども達には、相変わらずトラさんなのだ。温泉で、私にいつもの調子で健康指南だ。お前の身体は筋肉がない。体脂肪は幾つか。14か。しかし、内臓脂肪がまだ判らんぞ。腹筋が足りないから、内蔵が落ちてきている。あれこれの事例をあげて、身体を鍛える事の重要性を、説教する。風呂で説教されたら誰でも、聞かざる得ない身体をしているのだ。

彼は、今でも苦しい稽古を生きがいにしている。何のためとか、言うのでなく、それが好きなのだろう。すきとも違うのかな。やらずにいられない感じだ。ただただ、身体を鍛えると言う事が生き甲斐だ。それで、ちょっと困るのは、稽古をしない人間に腹が立つようだ。ここが少し、世間的だ。最近になってやっとと言うか、もう強くなると言う事がない。と気づいたと言う。衰える事を食い止めるのが精一杯だという。57になってそう言う事を言うのだから、仙人のようだ。名人伝のようかもしれない。彼が世間とはかかわりなく、ただただ、健康の為の、健康道を行くのも、名人故かもしれない。名人は自分の世界が絶対だから、聞く耳がない。何を言っても、一応聞いているようなのだが、会話は成り立たない。健康名人の世界を聞かせてもらうのみ。

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