鶏飼い小言
鶏は元気はつらつで、眠そうな鶏はいない。寒さにもめげず、やっと卵を増やしてきた。自然そのままに飼っていれば、冬至を過ぎて1週間、毎年おなじように卵の数を戻してくる。暮れから正月と宅配が休みなので、卵を持ってお世話になった人にお礼に伺う。
やれやれ、昔の数え方ならば、年が明けて、いよいよ還暦の60歳。隠居として、あれこれやかましく小言を語らなくてはならない。孔子によれば子曰、吾十有五而志乎學、三十而立、四十而不惑、五十而知天命、六十而耳順、七十而從心所欲、不踰矩。60歳に成ると耳にしたがうとある。私のような無学のものにはとても無理なことである。孔子様が言うことは大体逆でも成り立つ。どうも論語と言うのは中国人の性格に困り果てた結果できたような、逆も真なりの不思議なものだ。歳をとればたいていは、頑固になり聞く耳を持たなく成るというのが普通だ。だからあえて、耳順ということだろう。15で学に志せれば良かったのになぁーと、70過ぎてからの発言は残念感覚が響く。
「稲作小言」と言う、ざれ唄のようなものがある。明治二十年、船津伝次平と言う人が作ったものらしい。まったく今の現状を予測したような文章で、古くて新しい。今年最後に写させてもらう。船津氏は駒場農学校に奉職し、日本と西洋の農業技術を比較研究していたらしい。所が案の定、政府は西洋式の大型農業を提唱する。しかし船津氏はそれは日本の気候風土に適合しない農業であると主張する。職を辞して、自分の研究する自然に従う小農主義を主張することになる。それが稲作小言に集約された思想。いつの時代も小泉元総理のように、一見筋が通ったように聞こえる自説が声高々の農業改革。現場を見ていない。いよいよ持って、日本農業の成立基盤を崩壊させるような人がいる。大きければ合理性がある、大量生産ならコスト削減になる。そうとは限らないのが日本農業の複雑な現場だ。大きくすれば、生産コストが下がるような農地は少ない。
今年の稲作の作況指数は102だそうだ。この生産量は過去2番目だそうだ。減反政策を2年前政府主導は止めたが、又今年になって復活した。JAと政府のすりあわせがおかしい。そもそも減反は一時しのぎの政策のはずだった。米を援助物資にしたらどうだろうか。日本は自動車を売るための道路建設に援助したりする。日本の工場を作るためのインフラ整備にダムを作る。その工事を日本の企業が受け持つ。これを米に転換する。世界には食べる物にも困る人達が何億人も居る。日本の援助は全て、米にする。この先の世界の食糧事情を考えれば、アメリカでも文句が言えなくなるはずだ。日本円は米本位制に変えたらいいぐらいだ。江戸時代のように、公務員の賃金は米にする。大体に食糧価格が安すぎる。農家が買ったほうが安いというくらいお米の価格は変だ。
稲作小言は世界を肉食から、米食にするよう進めている。さすが先見の明がある。米ほど環境に負荷の少ない作物はない。アメリカがパン食を援助にかこつけて、日本の子供を洗脳したように、米食の世界普及に頑張る必要がある。日本人が米作りから学んだ、村社会の暮し方の知恵で、穏かな協働の暮らしを再生する必要がある。いよいよ小農の出番が来る。経済格差はこれから、恐いほど極端なことになるだろう。世の中益々不穏が予想される。ありえないような悲惨が起こりそうだ。何とかそうならないためにも、肉食を止めて、お米を食べましょう。この歌「稲作小言」が出来た明治22年。日本の人口は3800万人。新潟県が1位で166万人。人口は3,5倍、農業生産性は3倍にはなっていない。苦しい所である。
「稲作小言」
ヤレヤレ皆様 しばらくお耳を拝借しますよ
私と申すは ずうっと昔の その また昔の神代の時代に
豊葦原より現れ出ましてそれより日本に広まりましたる お米であります
飯にはもちろん 酒でも寿司でも 菓子でも味噌でも お米で作れば
味わいよろしく 紙すく糊にも 布はる糊にも 調法いたして 無類のものなり
とげる時分に 出たる粉糠は 牛馬の食料
風呂場に有用 肥料に要用 沢庵漬けには最も必要
糠味噌にも これまた同様
その茎わら 飢饉の食料 製紙の材料
縄・みの・むしろに俵に叺に 草鞋に脚半に 農家のふき草
垣壁なんどに 添えるはもちろん 貯蓄のたねもの 包んでおくなら
温気は通さず 湿気も犯さず 焚きてはその灰 種々に必要
腐敗しますりゃ 肥料に適当 そのほか効用 枚挙はつきせず
然るにこのごろ お米を廃して 肉食世界に 改良しなさる
お説も聞いたが 肉食世界を 拒むじゃなけれど 獣類なにほど
繁殖なすとも 値段が高くちゃ 下等の人民 食うことかなわず
米なら三銭 四銭でたくさん
穀類作れば一反二反の 僅かな田地の 収穫ものでも一戸の家内の
四人や五人は 年中食して余りがあります
牛馬を一頭育ててみなさい ある人申すに数年原野に
放牧するには一頭飼育に 六,七町余りの 地面を要すと
ヤレヤレ皆様 よく聞きなされよ
六,七町余に 一頭ぐらいを 飼うよなことでは 三千八百余万の人民
匂いをかぐには 足りるであろうが
食うには足るまい 足らざるときには肉類輸入し つまりは必ず お国の損耗
近年お米が 豊作続きで 安値であれども 安値であるとて捨ててはいけない
十分はげんで 智力をつくして光沢味わい 最もよろしき 上等種類を多分に作りて
どしどし輸出し外国一般 その良き味わい 十分知らしめ
肉食世界を 米食世界に 変ずるようにと 尽力するこそ 農家の職分
皆様はげんで勉強しなされ 勉強なさればお金はどっさり 日本に充満 日本に充満
明治二十年 船津伝次平 作
2008年自給作業累計:302時間