ある田んぼの保全
昨日雨の中、一日田んぼで畦ぬり代掻きをした。場所や目的については、全ての点で推測できる材料は書く訳には行かない。その約束で参加させていただいた。ある昆虫の研究者の方が、生き物がざくざく居るような田んぼがある。その地域の保全活動を続けている。と言う事をひょっと漏らした。そういう場所を一度見ておく必要があると思って、是非とも、見せて欲しいとお願いした。それがついに実現した。久野の里地里山保全活動でも、他所のいい場所を見ておかないと、足柄地域の現状が見えてこないと、考えていた。もちろん足柄地域の状況が良くないという事は、充分に知識としてはある。生き物の数が極端に少ないことは、経験的にもよく理解している。しかし、実際にいい場所と言うものを、体感してみないことには、これからの足柄地域の環境保全の方向の本当の所は判らないと思っていた。私も山の中育ちで、生き物を採って遊ぶ毎日だったから、ウジャウジャいたという記憶はある。しかし、こうした昔の話は怪しいものだ。
一目畦が危ないと思った。かなり急斜面の谷戸田で、大きな雨が降れば一気に流れる地形だ。道を挿んで上下あり、下部は5段ほどの棚田になっている。田んぼの耕作が行われていたから、維持されてきた地形だ。石垣が必要な4メートルほどの段差もあるのだが、全て土で出来ている。排水入水は28cmパイプで行われていた。水の出入りの構造は良く出来ているのだが、条件も困難だし、水管理も毎日されているという訳ではないので、畦の維持は難しい。田んぼをやっている私たちが、出かけた以上出来る限りはして帰ろうと思い、小雨の中での一日仕事になった。土の状態は層が出来ていて、稲作に良い状態という訳でもない。各棚の一部に水深60cmほどの深みが作られている。田んぼと言っても、20年以上も放棄されて来た場所だ。5年前に、そこに極めて貴重な生き物がいることがわかり、保護の為に再生された。
作業開始の前に、調査の網を仕掛けた。そして周辺の泥混じりの部分を網ですくうとそれは一網何十と言う生き物がいる。この状況は記憶にはあるのだが、それとも違う。昔は食べるとかあれを捕まえるとかで、それ以外のものは目もくれなかった為だろう。夕刻、仕掛けた網を上げると、そこには既に目当ての生き物が9個体いた。11月9日の気温12度。作業を続けている間に仕掛けた網に既に9個体とは驚きだった。さらに驚いたのは上段のコンクリートで固められた付近でも、確認されたことだ。たいした面積ではないのだが、浅い水面が田んぼの水路の一部に確保されている。素晴しい環境がどこかに保全され、繁殖地として管理されていれば、生き物は慣行栽培の田んぼにも広がってゆく。
湧水が何箇所にもある田んぼだとおもう。もちろん、大きくは2箇所の入水口からの水が主流だが、全体からの染み出し水がそれ以上の量になっているはずだ。湧水の貴重さをしみじみ感じた。足柄地域も湧水は豊富な土地柄だ。これを再生整備してゆくことが、方向根っこにあるように思う。山付きの湧水資源の活用。実は私のところにもある。これから整備を始めようと思う。もう一つは、コンクリートの田んぼでも、ちょっとした配慮で、生き物は暮しやすくなることに気付かされた。久野の里地里山の再生も少し見えてきた気がした。
暗くなった頃、作業も終わり、個体に識別番号をマーキングした。棚田を見渡すと朝の到着した時より、水面が広がり環境整備に少しでも協力できた思いになった。充実した気分に浸った。作業の疲れは少しも無かった。