『大東亜戦争の正体』
このブログへのコメントで、近現代史の推薦できる本として紹介いただいたものだ。やっと図書館まで行ける時間が出来たので、借りてきて読んでみた。清水馨八郎著、祥伝社。歴史の研究書かと思って読み始めて、まるで違っているのでとまどってしまった。学問と言うものは主観を出来る限り排するという姿勢が大切だと思う。稲の作物学の研究に於いて、出穂のメカニズムの研究をする。このことが温暖化とどのように関係するかが研究課題であるとする。予見を廃し、科学的な客観性をどう確保するかを、実験法の設定の大前提とする。学問研究とはどの分野でも、そうしたものであろう。大東亜戦争が、アメリカの侵略戦争である。このような発想を持つのであれば、それを裏付ける研究の深さが、資料の正確さが何より重要に成ろう。しかもその研究材料は2次資料でなく、原本に当たったものであることが、重要である。所がこの本ではそうした姿勢は、皆無である。つまり、この本は国粋主義政治思想のプロパガンダ本と位置づけることが、私の評価である。
おかしな論理展開を文面で指摘してゆく。
○「白人の野蛮性と世界制覇への道」では、稲作の優秀性と比較して、麦の農業生産性の低さが、一番有利な職業は略奪というのが一般常識になるのであった。P44
○日本がその生命線である朝鮮半島や満州に進出したのは、白人のアジア侵略を防ぐためだった。つまり自衛のためであり、植民地支配ではない。P88
○日本は生きるために、東南アジアの石油資源に頼らざるをえず、南方進出も止む得ない処置だった。p94
○日本の真珠湾攻撃の成功は、世界中を感動させこそすれ、悲しんだり、困ったりした国は一つもない。P98
○日本はロシアの植民地になりかけていた満州を助けた。そこへ清朝から皇帝が帰ってきた。それを日本が助けた。P112
○ドイツは国家として何の謝罪もしていない。日本が行ったような戦時賠償も、どの国にも払っていない。P122
○韓国は日本とはまったく異質の文化圏で、この恨の国と日本とは、永久に親交できることはない。P144
○戦後韓国がアジアの中で、日本に次ぐ経済発展を遂げられたのも、すべて日本のお陰であることを忘れている。P150
○「創氏改名」はしたから進んで願い出たものだ。日清、日露戦争に勝った国の氏名なら大手を振ってシナ大陸にも、日本内地にも移住できるからだ。P156
(引用部分には内容が分かる範囲で省略等があります)
こうした決め付けを根拠にして、日本の偉業をたたえ、天皇制を礼賛することになる。これではとても歴史研究の書とは言えない。この本を読んで、歴史を学ぶとは到底出来ないことがわかると思う。田母神氏の懸賞論文を読んでも、同じことが言える。全体が二次的な伝聞にもとづいて論理構成がされている。自分の論理補強に都合のよい形での引用が、目立つ。アメリカの侵略戦争である。とする側面は当然ある。欧米の帝国主義の暴虐は、世界史上許されないものである。例え、罠にはまって、日本が満州に進出したり、真珠湾攻撃をしたり、したと言うなら、日本は何とも、主体性のない情けない国ではなかったのか。負ける戦争にだまされて引きこまれるような愚かな日本人であったと言う結論になる。それが、「負けるが勝ち」と言うような屁理屈を持ち出し、世界平和は日本が作り出したという、不思議な結論になっている。そこには、脱軍備、脱武器輸出、を日下公人氏からの引用しマオタイさんの「もったいない」まで動員して、日本人の優秀性を主張している。何とも不可思議な本であった。個人的悲憤慷慨本を読んで、歴史を学んだ気に成っている人がいる。残念だ。ではどんな本から学べば、と言うなら、2冊ある。「戦争責任・戦後責任」朝日選書506、「ガンディーの生涯上下」レグルス文庫