土地探し
私は土地探しについてはちょっと自信がある。それは、どこか新しいところに住もうと、長い間探し続けていたからだ。今の小田原に来て、始めて、ここは死ねる場所なのかなと思った。それは私の住む舟原地域の人達の、率直な人当りのせいだった。
小田原に来て、8年になるが、その前は山北に13年住んだ。山北が生涯で一番長く住んだ場所だが、ここを見つけるときは、それはアチコチを探した。
最初は房総の方を探した。20何年か前になるわけだが、房総の山中に移住する人達が少し現れてきていて、そうした頼りない情報を頼りに、歩き回っていた。しっくりした場所に出会わないまま、北は方角が違うという感じを受けて、南に場所を変える事にした。
次に探したのが、伊豆だった。ところが、伊豆は別荘地開発が先行していて、そういうところには住みたいとは思わなかったので、やはり場所と出会わなかった。伊豆は深く探すことも無く、やはり海の周辺という事で、葉山と真鶴で2箇所の場所を見つけた。少し方向を変えた時期だ。この頃、ここはどうかという場所に出合った。バブル前期で、土地がどんどん暴騰している時期だった。
結局、今思うと運命のように、2つとも流れた。あの時買っていれば、その後、5倍にはなったのに、と時々思ったりもしたが、あそこに行かなかった事は、幸運だったと思う。
もう探しに探して、3年ぐらいは経っていた。まだ自分自身が何を探しているのかも、分からなくなっていた時期だ。暮らしを変えたいとは思っていた。絵を描いて暮らしてゆくつもりだった。絵も熱心に売っていた時期だ。東京に暮らしているという事が、辛くなっていて、どこかに移りたかった。
土地探しは、雨、夜、歩き。その土地に寝てみないといけない。夜その場所から、夜空を眺めてみないと分からない。特に夜しか分からないのは音だ。雨に日にそこに立ってみる必要がある。水の状態は重要だ。とにかく歩いてみる事。周辺の植物は、つぶさに観察する事。50年の樹木があれば、50年の歳月が刻まれている。土壌の性質。汚染状態。土は、何万年もそこにあったのだ。動かされている土なら、その由来。
風水という事が言われるが、確かに風水でよいといわれる土地は、地形的に人が住むのには、最適な場所となる。小高い丘の上で、後ろにはさらに高い山があり、そばに流れがあり、南傾斜である。その扇の要のような場所が、いい。
大体そうした場所は古代人の住居址がある。
その土地の人と話すこと。見つかった2つの場所をやめた理由は、その周辺の人が、何故か、うろんであった。私には波長が合わなかった。その土地に長く住んでいる人を作り上げているのは、その土地だから、古くからの人を見ると、土地の性質も見えてくる。
山北は運命のように、見つかったが、見つかってから購入するまで、2年はかかった。道路の問題。水の問題。建築許可。多分不動産屋さんレベルに、土地の法律と、慣習を学んだ。
しかし、そのやっと見つけた、理想と思った土地も、13年暮らして、小田原に移ることになった。山北の暮らしから離れる事には、残念な気持ちもあった。しかし、充分成果があったと思っている。山北の13年は私自身の「生活の探求」には、不可欠な物であった。山を切り開き、自給自足を体験する事は面白かったし。若い内に体験しておくべき、重要な要素だと思っている。
もう町の中で暮らしても、自分の暮らしがぶれる事が無いという気持ちで、小田原に移った。そのときは自分が探している物が、分かっていたから、何も迷う事はなかった。ここに移る前も、周辺の家の方には、遠慮なく尋ねて、お話をさせてもらった。実に率直な土地柄だと感じた。それが決め手だった。