稲作農家崩壊
今、農家として暮らす、一人として、「稲作農家崩壊」の今年を書き留めておきたい。春先来の低温と日照不足で、苗作りに苦労した。その後も天候は予想を裏切り続けたが、夏の高温で、何とか盛り返した。早稲品種は大きな減収。晩生稲は豊作。乳白米が多く、品質はいまひとつ。天候が年々荒くなり、稲作技術もその対応は不可欠になった。栽培の浮き沈みが大きくなった。マニュアル的な農業はより難しくなった。直接稲を見る能力が問われる、稲作と言う事だろう。農民の平均年齢が、65歳を越えた。60%が65歳という、もう労働人口と言えない状況で支えられている、日本の農業。政府の言う事と逆をやればいい。というのが、昔からの農家の教え。大型化、農地の集約。国際競争力、グローバル化。補助金。この通り進めた稲作農家は、今崩壊を始めている。
今年の米の農協の引きとり値段は60キロ1万円。と思えばいい。10年前の半分。政府の発表する、大型モデル農家の生産費ですら、16750円。作れば作るほど、の赤字。もしこの農家に補填するとなれば、2兆円の税が必要になる。機械化し、農地を集約し、大型化すればするほど被害額が増大する。これほどお米が安くなる一番の原因は、米はこの10年で消費が半減した為だ。食べないのだから、売れないのは当然。米主体の食事から、周辺の食べ物への移行。こうした変化は、食への国の方針がない為に起こった、食の異変。例えば日本人主食が、バナナでいいわけがない。日本という国土に適合し、日本人の暮らしを作り上げる食が、日本で生産出来ない物になって、言い訳がない。これから世界は食糧不足に入る。この認識が政府には足りない。稲作を大切にしないで、日本人はこの国土に暮せない。
当然の結果として、農地価格が極端に値下がりを続けている。特に米所では買い手が居ないという状況だ。山形県南部でも上田が1反150万円。100万を切っても売れない田んぼもあるそうだ。足柄平野の農地は、10年で3分の一以下になった。実態、1反300万では買い手はなくなっている。売るなら早いうちが良い。という空気だ。小田原市では、農地の宅地転用を目的にした、田園優良住宅制度を取り入れる。もうはっきりと農業に見切りをつけたと言う事だ。農協ではその説明会が行われている。東京への人口集中がさらに続く。日本人の大半が都会という、人工空間で暮して行く時代。生活とか、暮らすとか言う事が、食糧生産の現場から、遠のく日本人。食料の生産も観念的にしか考えようがない。別に都会生活者が自滅したとしても、当然の事で、仕方がないとは思うが、その反動は日本全土に及ぶ。
来年は生産調整を国主導で、強化する。つまり、米を作らせないで、米価を上げようと言う事だ。と成ると、稲作生産できるのは、集落営農団体とか認定農業者だけと言う事になるかも知れない。全く農業の展望を誤っている。しかし、政府は大型化と競争原理が、日本農業の道と考えた。方向の誤りに気付かず、間違いの上塗りをして、更に問題を深刻化するだろう。都市に集中する日本人の暮らしが、間違いの基だ。これでは、都会が崩壊する選択などできるわけがない。こうした大きな舵取りの誤りを正さない限り、農地が余りながら、食糧危機が日本人を襲う。遊休農地があったとしても、農民が居なければ、食料は生産できない。この先5年すれば、60%の農民は老齢化して、いよいよ働けなくなる。利益追求の企業がこのバカバカしい産業に、加わる訳がない。新たに参入出来ない現状を見れば、崩壊まで5年の限界農業。