知床遊覧船船長の電話は使えなかった。

   



 知床の遊覧船の沈没事故では携帯電話の通信の領域の外で起きたことだった。石垣島で電話を選ぶ際に一番問題にしたのは通信の範囲である。島では通じやすいのがドコモのようなので、結局契約の価格では無く通信範囲でドコモを選んだ。これは知床でも同じような事情のはずだ。

 もし、遊覧船の船長になるなら、当然一番通信範囲の広い会社のものにするはずだ。地方でも特に知床や石垣島では格安のスマホというわけには行かない。特別辺鄙な場所で、自動車が故障したら連絡が取れないと言うことになる。私のように迂闊なものはしょちゅうJAFにお願いしている。

 形態電話は必需品だ。それが遊覧船の船長は知床では通信範囲の狭いauの携帯電話だったらしい。なんと言う安全意識かと思う。これでは船が壊れてもJAFを呼べないでは無いか。たしかにJAFは船では来てくれないが。それならなおさら、ドコモにしておくべきだった。

 そうではない。衛星電話にすべきだ。なんと衛星電話のアンテナが折れて使えなくなっていたそうだ。その代替の通信手段として、携帯電話にしたらしい。その電話がドコモじゃ無い。知床の観光船であれば通信手段は二系統必要と考えるべきでは無いか。

 auの携帯電話では知床半島の沖に行って、連絡が取れなくなる可能性を船長は知っていたはずだ。事故が起きたとき乗客のドコモを借りて電話したとある。波が高くなったら戻る条件での出港というのに、通信手段なしで怖くなかったのだろうか。ちょっと馬鹿げた判断では無いか。

 この船長が自分の携帯電話が通じなくなるのは十分知っていたに違いない。僻地で暮らすと言うことは電話の通信範囲には敏感なはずだ。何かと困ることがあるのだ。まして船の仕事をしている。沖に通信できない場所があることを知っていて、安易に考えていたのだろうか。そんな船に乗せられていたと思うと、いままで事故が無かったことの方が不思議なくらいだ。

 しかも数日前とかに、安全検査が入ったというでは無いか。何故アンテナが折れていたのを軽視したのか。携帯電話で代替できると言い切れるのか。携帯電話が電池切れならどうするのか。私はその不安があるから、車には充電器を積んでいる。不安で観光船の船長には慣れない。

 その検査をした機関の言い訳が、携帯電話会社のエリアの表示は曖昧なものだから問題にはしなかったというのだ。あきれ果てる。それでは安全検査では無い。自ら通信範囲を把握していないものを通信手段として認めたと言うことで言いはずがない。衛星通信のアンテナが折れていたときに直すまで使用禁止にすべきだ。

 携帯電話の電池切れだってあり得る。モバイルバッテリーなど準備していて当たり前のことだが、たぶんそこまで考えてもいないような気がする。その安全検査をした人の責任も大きくある。何故こんな状況を見逃したのか。携帯電話なぞどこでも同じであるかのように発言している。

 これは明らかに嘘だ。知床に暮らしていて、どこの会社でも通信エリアは変わらないし、会社の主張するエリアなど当てにならないと、考えている検査官がいるはずが無い。僻地に生活していて、通じない場所があることくらい誰にでも分かることだ。

 つまり安全検査官が安全に関して実に安易なのだ。人の命を預かる真剣さがまるで無い。こういう人間の劣化は日本の至る所で起きている。注意力が散漫になっている。応用能力が不足してきている。これは日本人が農業を離れたことが影響している。

 予想外の安易さが重大事故に繋がることがある。昔より事故は減ったとは思う。しかし、ときにおこる事故が余りの準備の悪さ対応の悪さに驚かされることが良くある。今回の事故は会社と船長両者の人為的な事故と言っていいものだろう。

 百姓であれば、自分の頭で常に次に起こることを予測をしなければ仕事にならない。そうした百姓的力で日本は保たれていたのだ。百姓の家で育った人間が日本の要所要所で頑張っていたから、日本は世界に希な、安全で確実な国になっていた。百姓日本人が消えたのだ。給与取り日本人だけになった。

 タイムレコーダーガシャリと押せば、どうにかカッコが付くもんだという、迂闊な家で育った人種になった。といってもそのことすら今では良く理解されないに違いない。給与取りがほとんど担った社会になっているから、サラリーマンは気楽な稼業じゃ無いと言いたい社会だ。

 確かにそうだ。上に忖度もしなければならない。下に配慮もしなければならない。百姓の方がはるかに気楽だ。気楽ではあるが、不確定な未来を予測はしなければならない。そして仕事の段取りは毎朝しなければならない。百も仕事があるのだ。

 個人の配慮に任せてはだめな社会になった。忖度は出来ても安全への読みは出来ない。そう考えてすべての安全の仕組みを見直す必要がある。今回の知床遊覧船事故では会社の問題も見えてきた。なるほど事故はこういう会社に潜んでいる。あの深夜バス事故を思い出した。

 この会社は船や海には関係の無い人が、2年前に会社を買い取り始めた事業だったと言うことらしい。そして前から所属していた人達を解雇してしまっている。理由は分からないが、経営するためには新しい人に変えた方がやりやすかったのだろう。海の素人が、未経験者を雇用して運行していた会社なのだ。

 会社を買い取る前からいる人では、海の専門家としての意見がある。それは違うと経営者に異論を唱えがちだろう。社長は海の素人だから、知識が不足して、やりにくいことになったのだろう。だから言いなりになる海をよく知らない新しい人に変えたと思われる。

 こういうことは船に乗る人にはまったく分からない。今になってみれば、ほかの船会社には分かっていたことらしい。ほかの会社が海が荒れて危険だから運行停止にしているのに、この会社だけ海に出たという。どうもあの会社大丈夫なのか。という声が地元では出ていたらしい。

 こうした回りの目を汲み上げる仕組みが必要だったのではないか。漁船の人達もふくめて、地域の安全協議会のようなものがあれば、歯止めがかかったのかも知れない。漁協と遊覧船会社との間の協議会のようなものもなかったのだろうか。

 石垣にも離島航路がある。良く船は運航停止になる。風が強いから、船が出れないという日はままある。安全対策は充分採られているのだろうか。船の事故は無いわけではない。海での遭難は昨年は17件あった。死んだ人は6人。今年になってからでも事故があり人が亡くなっている。

 海はとても危険な場所なのだ。すぐそばに見えている西表島への航路でも欠航は良くある。鳩間島は良く欠航になっている。与那国島ならなおさらである。今回の事故は他人事では無い。今回の遊覧船の事故を受けて、安全基準の再点検が必要だろう。

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