猫ひろしさんのオリンピック
随分おかしな話だと思っていた。猫氏は国際陸連の最終判断で、出場資格がないと判断された。当然のことである。猫氏はまがうことなく日本で暮らしている人だ。最近日本のスポーツ選手が複数、オリンピックに出たいがために国籍を変えるという人が居る。それはそれで構わない。ただし、生涯その国で暮らさなければだめだ。日本で暮らしていて、オリンピックの出場資格の為だけに、選手層の薄い国を選択して、オリンピック出場を目指そうという発想は間違っている。そこまでしてオリンピックに出るというのは良くない。猫氏はどう見ても日本のお笑いタレントである。日本から出場を目指せばいいだけのことである。出場がすべてではない。条件を変えてすりぬけようという精神が許しがたい。最高レベルのスポーツを見ていて感動するのは、人間そのものが透けて見えるからである。人間のすごさとか、可能性とか、素晴らしさに引きつけられる。その選手のそこまでの歴史まで感じる。
むかし、南アフリカ共和国が人種差別をしているということで、オリンピックへの出場権がなかった。ソーラバットという17歳の女子選手が、とても強いということになった。5000メートルをはだしで走り、世界記録を出したという。本当なのかという驚きが広がり、オリンピックに出してあげるべきだという話が広がった。その後、イギリス国籍が突然与えられ、ロサンゼルスオリンピック3000メートルに出場する。アメリカ代表には世界選手権では優勝している、メアリー・デッカ―選手が居た。陸上の中距離をしていたから、どんな競技になるか固唾を飲んでみていた。序盤はデッカーが出る。そのあとゾーラ・バットは先頭を飛ばした。勝つためには異例の展開である。両者冷静でない。序盤から前に無理に出て競り合った為に、バット選手には疲れが少し出てきたように見えた。その時に何とインから抜こうとした、メアリー・デッカーに対して足を出した様に見えた。それは意識的というより、反射的に抜かれまいということで、インに身体を寄せようとしたことが、足を出したようになったと、私には見えた。デッカーは転倒し、棄権する。
後の話では、バット氏のイギリス国籍は誰かがお金を出して、仕組んだということだったようだ。いずれにしても後味の悪い話であった。バット選手はその後活躍はせず、失速した。猫氏であった。カンボディアという国に失礼ではないだろうか。カンボディア人として、カンボディアで生きてゆく気構えがあるのかと言いたい。オリンピック出場が消えたこれからの猫氏の生き方で、何かを見せてもらいたい。もうカンボディアのことなど知りません、そんなことになりそうである。こういう馬鹿げたことが次に起きない様に出来ないものか。その為にも、猫氏のこれからの生き方だ。今、ボクシングで挑戦している、やはりお笑いタレントのしずちゃんはすごい。本気のあの姿勢には、心底頭が下がる。オリンピックに行けるとか行けないとかいうのは、結果だ。
猫氏だって練習は本気でしている。それでも日本では候補選手と言えるレベルではない。人間努力しても駄目な場合がほとんどだ。その時こそ、真価が問われる。何をやるにしろ諦めることばかりである。様は諦めきれないことをどう諦めるかである。出来るだけのことをやる、自分が限界までやり尽くす事自体に意味を見る。駄目だったということは、確かに、どうにもならない自分という低いレベルを、確認させられる情けないことだ。それでも、そのことを無駄にしない。あんなに頑張って、良い土壌を作ろうとしてきたのに、放射能が一瞬にしてすべての努力を無駄にし、さらに悪い状態にしてしまった。諦めきれないが、それでも今日も努力するしかない。絶望的である。耐えられないと思う日すらある。殆ど無意味であるが、やるしかない。私が陸上競技をやったことは、諦めるしかない自分の限界を突き詰めたという、自己確認としては生きている。