水彩人初出品者の批評
2025/09/16
水彩人初出品者で入選した人が10名いた。毎年そのくらいの人が初めて、水彩人に出品する。仲間が増えることはありがたいことだ。水彩人は水彩画の研究会である。出来上がりの良い絵を求めるのではなく、研究している絵を求めている。
普通の公募展とは、かなり違うと考えてほしい。その人でなければならない絵を描くために、同志を募って始まった研究団体である。互いに学ぶ会うために、一年に一度絵を並べている。
初出品された方の絵の批評を書かせていただく。毎年やっている。これが作者の目に留まることがあって、参考になればと思っている。絵を見て考えたことを、言語化する練習でもある。言語化しない感想では、役立たないと考えている。
大木 弘美 「鳩と彼岸花」
鳩の描き方が見事である。鳥というものの独特の肌触りまで描かれている。絵全体の色彩が柔らかくて美しい、童話的色調である。色彩の調和の良さに比べて、全体に描かれているものの位置の関係がばらついて見える。
鳩を取り囲んでいる白い空間がバランスを崩しているように思われる。鳩を描きたいという気持ちがそうさせたのだろう。周りの楽しげなものが、鳩と融合するように研究する必要があるのだろう。
石原 素子 「木蓮Ⅱ」
木蓮の気品ある白い花が、優しく描かれている。やられてはいるのだが、花一つ一つの描き方にさらに工夫が必要だろう。また花の役割の違いを描く必要がある。していないわけではないのだが、白の表現には、多様なものがある。研究してほしい。
花の置かれた状態は悪くはないのだが。空間と白い花の関係を描かなければならないのだろう。物がないところの描き方が、少し観念的になっている。花と空間が一体化するように気持ちを変えないで描く方がいい。
小木 美加 「今日も会えたね」
物語のある絵である。奈良公園の情景なのだろうか。鹿と車夫とが目を合わせている。その一瞬に通い合い広がった暖かさが、確かに画面にはある。その空気感はもう少し物を減らし、大きく描いた方がよかった気がする。
光景の記憶なのだろう。記憶というものの面白さである。絵と記憶は大切な関係がある。見る人も自分の記憶と重ね合わせることになる。影の表現が美しい。地面の影、木の影、遠くに見える影の表現も美しい。たぶん影が鹿が発したものと、相まって記憶に残った。
高橋 美緒 「夏山へ行こう」
静物としては無難な作品ではあるが、静物画の先にあるものを考えたい。何か具体的な静物画の目標を定めて描いた方がいい。その描きたい世界には、どのようなものが必要か。どのようにそれを並べればいいか。
自分の内面と絵のつながりが表現されるよようにしてほしい。上手な静物画の先にある。自分の静物が。自分が描く喜びが絵に出てくるように描いてほしい。
高橋 暁 「リャドロと青磁」
優しい絵である。心地よい塗り心地である。形の崩れ方も統一されていて、絵の主旋律になっている。形の見方に作者の絵の主張を感じる。真ん中に置かれた像の印象の深さは、別格だと思った。
絵というものの理解が深いのだろう。確かにこのままでいいのだと思うが、さらに自分の世界を深く、表す描き方ができる人でないかと思う。上手にならないで、自分の世界を深めてほしい。
高橋 万里子「平和の人逝く」
教皇の優しい表情が良く描かれている。ただ肖像画というものは難しいものだと思う。画面の作り方に定番があるのかもしれないが、アーチの上が切れてるところが気になった。人物とその取り巻く形が全体としてアンバランスな感じが強くなった。
仁田 亮 「噴」「休」
初出品で会員推挙である。絵の世界が出来上がっている。世界観がある絵だ。作者の内的な世界をどう表現するかが模索されている。この絵の背景となる、作者の内的な世界の深め方に、かかっているのだと思う。
たぶん私と同じ、「私絵画」の人なのだろう。作品が深まるということは、自分が深まらなければならない。どう描いてゆけば、描くことで自分が深まるか。たくさん描くこと。描いては言語化すること。これしかない。
鷲巣 加奈 「移ろい」
色使いに特別なものがある。燃え立つような世界だ。特に中央の花の上にある、陰で表現されているものが、一瞬火の鳥のように見えた。花の一部と言えば言えそうだ。急に幻想絵画のように見えた。
色彩も幻想絵画だと思えば、この色彩も納得はできる。この不思議な感じがこの作者の特徴なのだろう。作者としてはそうした自覚はないのかもしれないが、人にはそう見えるということから、自分の絵を考えてみるとよいかもしれない。
大倉 美和 「Oka-hydrangaer」
中央を飾る白い花の表現が多様で美しいのだが、その陰にある紫陽花の表現が、さらに素晴らしい。絵を作り上げる力量はかなり高い。むしろ壊す努力がいるのかもしれない。破綻がなさすぎるような気がした。
ここまで表現できているにもかかわらず、静物画としての世界観というか、主題が少し弱いようにみえる。絵の説得力を高めるためには、この絵で何を表したいのかが問われるのではないだろうか。
冨田 美代 「異国の花」
力強い表現である。水彩画の濃い表現が巧みである。色彩が精神を伴っている。しかも細やかなものの見方が美しい。花と葉の関係も見事に調和している。繊細で丁寧なものの見方で貫かれて、熟達もしている。
ただ、あまりにまんべんなく至る所を描いてあるために、その魅力がかえって弱まっている。画面全体で見ると下の方の表現は少し弱めて違う表現を考えた方がよかったのかもしれない。これだけ描く力量があるのだから、画面構成の工夫ではないか。