水彩人展の新人9名

   

 水彩人展では初出品で入選した方が9名おられた。個人的にはコロナへの不安が強く、今回は開催すべきでは無いと考えていた。何も手伝うことも出来なかった。多くの方の御陰で、無事展覧会は開催がされた。

 現在、水彩人のホームページではウエッブ展として作品を展示している。出品作の公開と、会場の動画である。9名の新人達の作品の感想を書いてみたい。


藤井黎子(6室)
水彩絵の具を薄く水に溶き墨流しのような表現の背景になっている。そのにじみが水彩表現らしい独自性があり、優れていて注目される。墨流しと言ってもかなり人為的なコントロールがされていて、その色のシミの具合がある種の幻想を感じさせる。そこには何か毒を含んだような印象が込められていて、それは紫色の色彩から来ているように感じた。
こうした技巧に凝ると、へんに嫌みになりがちであるが、そういう所は少しも無い。一方であじさいの花の表現は花びらを一枚一枚克明に書き詰めている。この対比の意外性がこの絵の主張になのだろう。主張が表現に繋がっているというところが良い。そして葉っぱがその両者の架け橋になっているわけだが、背景の空間と花の個性的な表現に比べると少し、普通になっているのかもしれない。
これだけ水彩絵の具を使いこなしているのだから、鉛筆の線はない方が良い。鉛筆がいかにも葉の下書きが残っているような安易さを感じさせてしまう。


関順子(6室)
小さな作品であるが、少しも絵の世界は小さくない。海が大胆な構成で画面の8割方を占めているのだが、その海の表現が実に爽快なものでありながら、深い絵画感まで感じさせる。この広がる水の表現は素晴らしい。それは空の表現でも同様であり、水彩画における何も無い場所の自由な表現の魅力を溢れさせている作品である。
この絵には海を見ている作者の眼。空を見ている作者の眼が存在する。
残念なことは船と遠景の対岸である。それなりにうまいとは思うのだが、このものの見方が、作者の目という所までは進められていないのでは無いだろうか。ここでも鉛筆の線が絵の説明になり、絵画の魅力を減じている。

岩田央樹(4室)
なんと言っても印象的な線がちりばめられた絵である。筆触の表現法を確立している。水彩画でこうした表現は余り見ないものである。どこかの街角なのであろうが、当たり前のようで当たり前でない不思議な空気感。線描が生み出しているデカダンスの空気がある。
黄色の空の様子からすると、夕景と言うことかもしれない。疲れた街とでもいうのだろうか。日本の当たり前の街角が、こんな奇妙な見方がされて、絵として表されていると言うことには、作者の目のすごさを感じる。
ものの色にこだわらない多様な色の爆発的な表現。この個性を是非とも次の作品に於いて、展開してみて貰いたい。



東条続紀(4室二点展示)
白い向日葵が幻想的に中央にある。その花に反映したように、モザイク的に色彩が広がりうねっている。相当な労作である。二点の表現も統一され、うねりが両者で反映していた。画面全体を分割しながら塗り込めている思いが画面を圧倒している。相当の描写力のある人だと思われる。画面に込められた執念を感じた。
その一方で少し絵画としての世界観への迫り方が足りないかもしれない。何をどう表現したいのかという説得力が不足しているかもしれない。一種画面敷面構成的な平板なものに見えるところがある。水彩画の濃度表現の違いを工夫したらいいのかもしれない。

吉岡一男(3室)
水彩画の人物画はなかなか難しい。どうしても表現と言うより、習作と言うことになりがちである。人間を通して何を表現するのかが重要なのだろう。背景の石積らしきものが、淡い表現で描かれている。その石の表現と人物表現とが、絵画として繋がらないところがある。
服の表現が良い。服の中に人体がある。布の質感が良く表現されている。
いずれにしても重要なことは人物の顔と手であろう。この顔が魅力的なものでない限り、人物画というものは成立しないのでは無いだろうか。


井上るり子(3室・二点展示)
作品として完成されている。相当に描かれてきた人でないかと思う。こういう人が初出品として、水彩人に出してくれると言うことは実に有り難いことだ。抽象画では無く、具象的な静物画の題材を抽象画的な処理をされていると言うことなのだろう。
その抽象的処理法に独特の世界観がある。

竹内よう子(2室)
実に巧みな構成の絵だ。ジグザグに上昇する空間の意識が素晴らしいと思う。草原に思いがこもっている。風景を見ている眼替えを描く目になっていると思う。






松島和代(5室)
画格が高い作品である。上品で良い資質を感じさせる。絵の方向は間違いが無くこれでいいのだと思う。筆触が実に美しい。手前の花の黄色にもう少し変化が欲しいところかもしれない。画面の隅々まで表現であると考えた方が良いのだろう。
青い色の屋根の家のたたずまいが何とも言えなく良い。それを取り巻き見え隠れする、木々の線描に素晴らしいものがある。このままどんどん進んで欲しい作品だ。


山本彩子(5室)
贅沢で静謐な空気感のある作品である。丁寧で上質な絵画だと思う。ものを表現する水彩画の方法を持っている。きちっとものを表現する力があるのだから、自分の世界の何をどのように描くべきなのかを意識して欲しい。表現の方向の明確さが必要だと思う。薔薇を描くという意味でははっきりしているわけだが、薔薇を通して何を表現すべきなのかということになるのだろう。

Related Images:

 - 水彩画