物価高の中の米の値段だけが下がる理由

アメリカで稲作をされている牧田一郎氏の直播き田んぼの写真。記憶したいのでここに載せる。額縁が深く掘られているところが、興味深い。また、田面がでこぼこになっていて、その合間に種が蒔かれてゆくのだろう。1反に2,3キロ蒔くという。
政府は稲作の生産コストについて、『日本再興戦略(平成25年6月安倍内閣閣議決定)』において、今後10年間(令和5年まで)に、 全農地面積の8割を担い手に集積し、担い手の米の生産コストを平成23年全国平均から4割削減する 政府目標(KPI)を設定した。
ここで言う担い手とは、他産業並みの所得を確保し得る「効率的かつ安定的な農業経営2」 を行う経営体、つまり 本音で考えれば企業農家と言った方が分りやすい。農家の担い手は、認定農業者とも呼ばれる。
農業経営基盤強化促進法に基づいて、農業経営改善計画を市町村に提出し認定を受けた個人の農業経営者または農業生産法人のこと。 認定農業者の実体は政府の考えた物と大分違っている。以前私も認定農業者にならないかと言われたことがあるくらいだ。
その令和5年がやってきた。いつもの農業政策と同じで、何も実現していない。確かに農地を集積できた大規模農家は生産費が平均的農家の50%下げている。認定農業者全体のこととは違う。農家平均での60キロ当たりの生産費は15000円の所、50㏊以上の農家企業の生産費は1万円ぐらいである。
一方で大規模農家の目標数の方は、80%どころではなく、スケールメリットが出て、生産費が低くなる、50へクタル以上の大規模農家となれば、25%程度に留まっていて伸び悩みなのだ。確かに一般農家との競争には勝って、農家を離農させているだが、企業的に見れば、つまり投資が集まるほど、利益が出ていると言うほどではないのだ。
あしがら農の会の行うお米の自給活動の生産費は60キロ当たり、5000円くらいだから、大規模農業企業のさらに半分位になる。これが、将来は農業企業と自給市民の田んぼだけが残ると言うことの予測の根拠である。
JAがJAに販売委託をしない農業企業との競争に勝てないと言うことになるのははっきりしている。JAは多くの稲作会員を抱えてどうすると考えているのだろうか。農協というものの設立の趣旨からすれば、諦める訳にはいかないはずだ。
市民の生産費が60キロあたり5000円と低いのは、労賃が入らないからである。労賃はリクレーションと健康体操。普通の農家を平均的に見ると、労賃が60キロの生産費の内4000円くらいを占めている。この賃金の算出は最低賃金なのだろうか。あるいは、熟練技術者の労賃だろうか。大規模になると、これが2000円以下になる。外国人労働者の過酷な雇用が背景にあるのかも知れない。
労賃を低く抑えると言うことでは今後難しくなるだろう。円安もあるし、アジアにおける、日本の相対的経済価値が下がってきている。働きに行くなら日本ではないという時代が、すぐそこまで来ているような気がする。最近は暮らせるなら日本から出て行くという人が、増えてきている情勢である。
お米の価格は低いから、消費はだんだんに増えるはずだ。学生の頃お米と、もやしとオカラと卵で自炊で暮らしていた。お米があれば大満足できたのだ。何とか日々食べるものがあり、暮らせればそれで良かった。田んぼをやっていた大浦さんからお米を貰えることもあった。
これからも貧困家庭は安いお米を買うことに成るだろう。古米であればかなり安はずだ。一杯10円ぐらいで食べれるだろう。月に主食費が、千円もあれば良い。出来れば鶏を飼えば良いのだが。戦後の食糧難時代のように、リンゴ箱で矮鶏を飼う家がまた出てくるかも知れない。
しかし、企業農家の60キロ1万円の生産費もアメリカのお米の生産費から見れば、アメリカのお米の生産費は60キロ当たり5000円くらいだ。アメリカでは農の会の生産費と同じくらいなのだ。と言うことは、将来アメリカのお米と農の会のお米だけが残ると言うことになるのだろうか。
アメリカのお米の生産費が安いのは、よく言われるように規模が日本の大型農家のさらに10倍も大きいと言うことがある。なぜそんなに大きくてもできるかと言えば、直播き栽培だからだ。飛行機で播種する方式だからだ。今はドローンと言うことかもしれない。
徹底的に大型機械である。もちろん自動運転のトラックターやドローン等どんどん利用して、家族経営というものが多いらしい。米品種も直播きに向きの品種になっている。そうした品種開発は各州ごとに行われているので、当然気候や水土に適している。
その開発費用は品種を利用する農家が、品種開発企業に払う。アメリカではお米は品種名で売られない。カリフォルニアならすべてカリフォルニア米。アメリカの消費者には、余りお米の味が分からないのだろう。より適した品種でやらなければ、到底ドローンによる直播きなど成功するはずもない。直播き稲作という意味でも、最小単位の自給稲作とアメリカ方式の巨大農業が同じなのだ。
しかし、違うところがある。そのお米にはモンサント社の除草剤耐性であったりするのかもしれない。種籾と除草剤が続けて上空から蒔かれる。まさに環境破壊農業の典型である。そうして出来るアメリカの安価格のお米が、なんやかんやと日本の稲作農業を押しつぶそうとしている。
幸い、トランプ大統領がTPPを離脱してくれたので、かろうじて今は踏みとどまっている。アメリカは圧倒的な農産物輸出国である。ロシアのウクライナ侵攻で、穀倉地帯が戦争になり利益を上げているはずだ。アメリカの経済はロシアを経済封鎖したところで、儲かるばかりである。
担い手農家でけを残すという、安倍政権の目指した、と言うか竹中平蔵の構想は、やはり実現できなかったと言うことなのだろう。大型化といっても日本の諸条件ではアメリカほど大型化は出来ない。日本では空から除草剤は播いてもらうわけにはいかない。アメリカは農業者への保障は手厚い。何か問題が起きたときには、補填される農業法がある。
アメリカでの田牧流播種床づくり作業の手順 冒頭の写真が参考になるので使わせてもらった。
(1)水田の土が乾いている時にプラウで10㎝程度に浅く土を反転。イネ刈りあとの切株やイネわらにも土をかぶせるように反転させる。
(2)反転した土の表面が乾くのを待ち、乾いた土を小さく砕きながらレーザーレベラーで均一にする。乾いた土がレベラーの排土板で砕かれながら移動し、プラウで反転された土塊のすき間がふさがれて土がならされる。
(※レーザーレベラーが使えない場合の対応は別途検討中。2022年作付けシーズン前にその試験を行う予定)
(3)水田の表面の土が乾いた時に、ギザギザローラーをトラクターで引っ張り、水田の表面に山と谷を造っていく。
(4)水を入れて10㎝前後(山が水にくぐる)の深さに保つ。
以上の田んぼの作り方はとても参考になる。直播き栽培は成功すれば、おおきな可能性がある。石垣島ではネズミや鳥に食べられると言うことだ。これを防ぐことが出来れば、直播き栽培には可能性がある。