「良い苗を作る」稲作り

   



 マイコス菌の実験田んぼの苗代。ここまで乾いていても、苗は枯れなかった。写真は新しいものから、11月の古いものを探して掲載したので、だんだん前のものになっている。

 イネづくりでは、「よい苗を作る」ということが何より重要だということを、改めて感じている。気候変動が大きくなり、例年通りはなくなっている。強い苗を作ることが、前提といえるほど重要になっている。石垣島で苗作りを試行錯誤して、だんだんやり方を整理してきた。

 現段階の作り方をまとめておきたい。まず苗の目標を明確にすること。強い苗とはどう言う苗のことか。5,5葉期2分げつの苗ということになる。徒長気味ではない硬い苗。根元の茎が扁平5mmはあり、がっちりしている苗。いわゆる大苗がいい。

 有機農業で大苗が良い理由は、大苗は根付きがよく、土壌が腐敗気味でも耐える。有機の田んぼでは初期草がすき込まれる。この草の腐敗を土壌をよくする方向に導く。この初期段階の田んぼ土壌を乗り切るためには、健康な大苗でなければならない。
 
 腐敗気味土壌とは、緑肥や、落ち葉など大量に漉き込むために、代掻きして田植えをする頃に、嫌気発酵が起きている。ガス湧きが起こりがちである。この腐敗土壌が雑草の発芽を抑える。同時に苗の活着が遅れることがある。この時にしっかりした苗であれば、耐えきり活着をし、すぐに成長を始めてくれる。




 では5,5葉期の健苗をどうやって作るか。いわゆる機械苗の箱播きでは不可能なことだと思う。ポット苗ならば可能となるが、特別の苗土を必要とすることになる。これを作ることは相当の手間がかかるので、田んぼの苗代の工夫をすることになる。

 そこで、いわゆる保温折衷苗代に戻ることになった。戦時中に工夫したどり着いた、荻原豊次の「保温折衷苗代」と言うものがある。祖母の実家の油川の桑原家では昭和30年頃、保温折衷苗代を、家の庭でやっていた。桑原大叔父は農業試験場の技官だった。甲府盆地の寒い環境で、油紙と、障子を使い保温をしていた。当時保温折衷苗代は日本全体に広がっていた。

 私はこの技術を思いだし学び直し、試行錯誤してきた。小田原でもやるようになった。当時の油紙や障子が、今は穴あきビニールである。穴あきビニールは温度調整がある程度出来る。良い苗を作るために重要なことは、温度調整と水の駆け引きにある。



 苗代の土壌には十分な肥料がなければならない。肥料の量は苗に当たらないのであれば多い方がいい。苗は滞りなくすんなり育つ必要がある。過保護で良い。土壌は深く柔らかく、湿潤土壌である。土壌の中も水が変わる方が良い。

 苗代は田んぼよりも、3倍くらいの肥料が欲しい。ぼかし肥料を作り苗代に入れて使えば一番いいのだが、その土の手当てや、作り方がかなりの手間暇を必要とする。苗代に肥料をまき、ぼかし肥料碑を作るつもりで進める。1か月以上前から準備しなければならない。種まきが5月初めであれば、遅くとも4月初めには作り始める。

 5,5葉期の苗は種まきをして、5週間はかかる。初期の葉は5日間で1枚徐々に時間がかかるようになり、5枚目は7日近くかかる。6月1日が田植えであれば、4月の27日には種まきをしなくてはならない。苗代づくりは少なくとも4月初めに1度目の肥料を入れて、これはそば糠でいい。粗起こしをする。



 4月13日には発酵鶏糞を入れて、2回目の粗起こし。そして24日ぐらいに代掻きを行う。代掻きはできるだけ丁寧に、深めに行う。そして水を落としながら、できる限り平らにする。苗代に高低差があれば、水の駆け引きができない。特に苗代上に水たまりはあってはならない。

 種まきを4月27日だとすれば、苗代ベットの代掻きを25日に行い、水はベットの上から下げる。ベットはできる限り水平で、水たまりがない状態にする。ベットの土が落ち着いた状態のところに、鳩胸で根だしの種もみをまく。種籾は播かれたときに半分ぐらい土に沈む土の状態が良い。

 種籾は鳩胸状態。すべての種が芽出ていなければならない。それは低温で永く浸種することが必要。できれば根も出したい。種籾の根だし法がある。鳩胸状態になった種子を、脱水機で水を切る。コメ袋に入れて、暗い場所で30度で、例えば風呂の蓋の上に1日から、2日置くと、根が出てくる。

 鳩胸根だし種子を苗代に播くと発芽がそろう。種籾の播種量は1㎡あたり80g以下が望ましい。苗代に余裕があれば50gであればさらによい苗になる。良く無い苗を2本植えるよりも、良い苗にして1本植えという考えの方が確かである。



 「燻炭を播く」蒔いた種もみが保温されることと雑菌から守られるように、燻炭を播く。撒かないでも問題はないが、土壌が発酵土壌であれば、カビが出ることがあるから、燻炭を表面に撒くことで、安全対策になる。種を炭が覆うことで保温にもなる。

 種を蒔いたときに種が半分ほど土壌にのめり込むくらいが良い苗代の堅さと水分量である。種全体が潜り込むほど柔らかいと発芽が悪くなる。土に乗っかっているだけだと水が来たときに流され動く。潜らないのであれば、軽く抑えてやれば良い。

 まかれた苗代は穴あきビニールトンネルをかける。水はベットの周りの溝には常にある状態が望ましい。ただし、流し水ではなく温まった水が良い。種まき翌日は一度水位を上げて、水に浸からせる。そして水はまた下げておく。すぐに芽が出るはずだが、芽が1㎝まで伸びてこない間は、水やり程度に水位を1日1回上げる。

 水はできる限り貯め水にして置き、温めておきたい。温まった水がベットの周り取り囲んでいる状態が一番良い。5月の育苗のころは温度が急激に上がるときがある。この時は穴あきビニールの風上の一部をまくり、風を入れる。一部を開ければ上部の穴から温まった空気は抜ける。

 

 この写真は防風ネット。石垣島でも来年は穴あきビニールにしたいと考えている。トラックターで田んぼ全体は粗起こしをして、田んぼの縁はすべて代掻きをする。特に苗代部分は早くから肥料を入れて、繰り返し粗起こしをしておく。


 防風ネットでも良いのだが、少し生育が遅れた感じがした。迷うところだが、パオパオぐらいが一番良いのだろうか。しかし中が見えないのでは、水管理が出来ない。4穴あきビニール位が良いかと今は思っている。


 種を蒔き管理している状態。



 
 水位をあげたり、下げたりしている。ベットの中の土壌の水を替える。


 種を蒔くのを待っている苗代。奥にある水たまり部分は結局発芽が悪かった。苗代は上部が山なりになり、水が溜まらない方が良い。水の細やかな管理が出来るようにする。それが出来ないときには、沈んでいる苗代がないように、2葉期ぐらいまでは、水位の上げ下げで、水やりをする。

 発芽がそろった段階で、水位は稲の丈に合わせて、あげて行く。3葉期以降は常に水があって良い。徒長気味に生育するようであれば、水は下げる。

 いまだに、試行錯誤中なので、迷いながらであるが、堅い苗を石垣島でも作れるようになってきた。もう一息である。

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