理想の田んぼの授業案

   



 田んぼの授業が出来れば、生徒は沢山のことが学べると思う。大げさに言えば、日本の教育が再生されると思う。日本は教育が実学に偏重し、小学校で英語まで学ぶおかしなことになった。その結果日本人の劣化が進んでいるのだ。しかも恐ろしいことにその誤りを指摘する人が少ない。

 学校では農の作務の授業が必要だ。身体を動かし、食べ物を作り、それを食べることで、自分という生き物が生かされているという、人間の基本となる能力を自覚できて、身体が覚える事ができる。義務教育が生きることに必要な能力を育てるものであるならば、今日本人全体で失われた農の作務は不可欠である。

 その学習目標を具体的に挙げてみれば、
1,イネという植物を健全に育てるために、観察を通して、ものを深く見るという能力を高める。
2,自分の身近な自然環境が稲にどのような影響を与えているのかを知り、稲の生育を通して環境への対応力を高める。
3,自分が生きる基本となって居るのが食料であることを学ぶ。食料を作ることの大切さを知る。
4,身体を動かし、自然との関係に折り合いを付けてゆく。この体験を通して身体の扱いを覚える。
5,農作業に於いて、みんなで協働で働く喜びを感じる。

 人の見る能力は育てる事で高まるものである。育てなければ、眼から入る情報量は伸びることがない。ただ目に映るだけでは実は余り見ていないと言うことなのだ。ぼんやり見ていることを、図に書いてみることではっきりと認識することが出来る。

 葉の色を絵の具で出してみようとすれば、緑にはその色合いは様々である事に気付く。イネは成長に合せて、葉の色を変えている。生育段階にしたがって、どのようなみどり色が良いのか、見えているものの意味知らなければ生育判断が出来ない。

 葉の大きさ、葉の厚さ。植物の葉には様々な形イネは水の中で育つ単子葉植物である。イネの場合生育段階に従い葉はどのように変わって行くのか。何枚の葉がでるものか。品種によってイネの葉の数は違う。多くの品種が15枚の葉を出す。石垣島で栽培したら何枚の葉がでるだろうか。13枚であった。

 沖縄県のお米の収量が日本で一番低いことには理由がある。全国平均の反収は1反で539㎏。沖縄県は325㎏しか取れない。一番の山形県の半分ぐらいしか取れない。それには理由がある。沖縄県の自然環境にあったお米の品種が作られていない。宮城県で作出された「ひとめぼれ」と言う寒い地方のお米が作られている。

 稲は水の中で生長する植物である。日本で主に作られている品種はジャポニカ種という稲の品種である。南アジアやアフリカなどではインディカ種と言う暑い地域向きの品種が作られている。石垣の気候条件はむしろインディカ種に向いている。

 暑すぎる条件で作るジャポニカ種は十分な生育が出来ない。昔は石垣島でも蓬莱米という、台湾で日本人の技術者磯永吉 氏がインデイカ種とジャポニカ種を掛け合わせた品種を作っていた。その頃はもっと沢山取れていた。しかし、味が良くないので販売できないと言うことで、いまは「ひとめぼれ」を作るようになった。

 のぼたん農園では「とよめき」と言う熱圏におられる小林先生が作出に関わられた、石垣島に向いている可能性があるという、インディカ種が交雑された品種を作っている。果たしてどんな生育になるのだろうか。石垣に向いているのか試験栽培をしている。

 お米は一粒の種籾から1500粒になる。玄米1粒の重さは、0.0215g 。一株のお米は33gにも成る。1500倍にもなる素晴らしい主食作物だ。茶椀1杯のお米の粒(約65g)を数えると、約3000粒。 つまり、2株の稲でお茶碗1杯のご飯になる。

 この主食作物として、最も優れたイネを作ることで、自分が食べるものを自分の手で作ることが可能なのだと言うことを知ることが出来る。これが生きてゆく根底の自信になるはずだ。稲を作ることで日本人というものが生まれてきた。

 水があるために稲の管理は陸上の作物よりも管理が楽なものになる。そのために、日本では主食として3000年も同じ場所で繰返し作られてきた作物である。田んぼの土壌は、稲を作ることでだんだん稲に向いた土壌に変わって行く。

 水があることで、土壌は太陽光の紫外線を防ぐことが出来る。紫外線が弱められた水のある土壌では、微生物が沢山発生する。その微生物の死骸や排泄物が、土壌を細かな粘土状のもに変えてくれる。水がある事でもやウキクサが表れる。

 藻やウキクサは太陽光を受けて盛んに繁殖し、それが土壌の腐植を増やすことになる。田んぼは水があることで、肥料を作りながら、稲の生育を助ける。そのために田んぼは一年一年肥料がいらないものになって行く。特に石垣島に在るアカウキクサはその効果が大きい。

 田んぼには水を一年中溜めておくことで、より豊かな土壌を作ることが出来る。これは通年通水とか、冬水田んぼという。石垣島の土壌は通年通水しても沼かしない、素晴らしい土壌である。一般に本土の土壌では通年通水を続けると、田んぼが沼のようになり、硬盤という田んぼの土壌の下にある硬い層が柔らかくなってしまう。

 こうした石垣の土壌を生かすことで、石垣の自然を豊かにしてゆくことにも田んぼは役立っている。田んぼには微生物に始まり、それを食べる昆虫、トンボの幼虫ヤゴや、変えるの子供のオタマジャクシが増える。それを食べる小動物が増える。

 そして、それをエサとする鳥がやってくる。特別天然記念物のカンムリワシは田んぼで増える小動物をエサにして生活をしている。湿地を守るためのラムサール条約ではこうした通年通水の自然の田んぼを、湿地として認定している。

 田んぼの水は湧き水を利用している。田んぼの一番上に湧き水があり、そこに溜め池が作った。溜め池は沢沿いに5つ作られている。できる限り水を大切にしなければならない。こうしたわずかな湧き水と雨の水を利用して行う田んぼを天水田という。

 天水田は与那国島で行われてきたイネ作りの方法である。畦の幅は4m必要である。雨が降ることに併せて、一気に水牛や与那国ウマを利用して、田んぼの代掻きをする。何十時間もかけて田んぼを踏み固めて水を漏らないようにする。一度溜めた水はできる限り切らさないようにする。稲刈りも水のあるままに行う。

 水道の蛇口から出てくるぐらいの水の量でノボタンノウエンの田んぼは維持されている。しかし、このように地中から湧き出てくる水はミネラル分を多く含み、稲の生育には良い水と言うことになる。島で生きてゆく上での水の大切さを学ぶ。

 

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