福島から来た犬
福島のWさんのダイ君が我が家に来た。残念ながら健康状態はあまり芳しくない。すでに体調が悪かったところに、大震災と原子力事故である。飼い主とも別れなければならなかった。ほとんど餌を食べない状態である。点滴を受けてかろうじて命をつないできた。こうした状態で大勢の犬が保護されている中に居ることは、可哀そう過ぎる。暖かい家族的な環境で見届けてあげたい。ということで、タッズさんから預かってもらえないかと連絡があった。雷田のお父さんから頼まれたのでは、何としても引き受けたい。昨日寒川まで預かりに行ってきた。丁度散歩の時間で、みんな喜び勇んでいる。犬はなぜああも歩きまわることが好きなのだろう。まるで仕事の手順のように散歩が決まっている。順番が待ちきれないのか、大騒ぎである。ダイ君は騒ぎのなかそっぽを向いて寝ていた。
もうほとんど歩けない状態のようだ。ベットに抱えて寝かしても、動こうともしない。目だけが生き生きと澄みきった犬だ。車の中でも、うんともすんとも言わず寝ているだけだった。車が家に着くと、自分から降りようとしたが、とても降りることは出来ない。抱えて下ろそうとすると、噛んでくる。怖いのだろう。降ろすと、よろよろっと立っておしっこをした。かなりの量をした。歩いて部屋まで行けないかと試したが、すぐにしゃがんでしまった。抱きかかえて寝る場所まで連れて行ったが、相当に大義そうである。水を与えると、何とか飲む。この調子で餌を食べないかと口まで持ってゆくが、顔をそむけてしまう。どうも体のあちこちが痛いようで、その為に、触わられるのを嫌がっているようだ。持ちあげ方で、痛がって泣く。それ以外で鳴くことはない。猫達が一通り見に来たが、反応はない。この状態では我が家の犬達には、会わせられない。
寒いといけないというので、湯たんぽを作ってやったら、しばらくしたら、寝返りをして湯たんぽににじり寄った。すぐにまた湯たんぽから離れた。この後かなり深い眠りに入った。余りに静かなので大丈夫か心配になった程である。疲れたのだろう。朝4時に行ってみると、寝床から出て、部屋の隅に寝ていた。それでも人がいない間に立ちあがり、部屋の隅まで移動したのだから、全く動けない訳ではないようだ。ベットに移そうとすると、痛いのか、怖いのか、また噛もうとする。そのままベットにつれて行き、水を飲ませると水は少し飲んだ。糞を少しと、尿と、血尿がある。今はまた静かに寝ている状態である。7時ごろになったら、点滴をやってやろうかと思う。
飼い主のWさんからは、夕方すぐに電話があった。随分若い人のようだ。ダイ君のことが心配そうである。Wさんは避難所に居るそうだ。不安な気持ちが電話からも伝わってきて、言葉の掛けようがない。ダイ君が元気だとも言えないので、とても困った。一緒に暮らせないことを悲しんでいた。一週間の間には何とか見に行くからと言われていた。こういう時こそ、どれだけか犬と一緒に居たいものか、良く分かる。犬もそうだろう。犬はすごいもので、この状況でも受け入れる力がある。自分の中ですべてを飲み込もうとしている。犬に原発の責任はまるでないが、犬は文句も言わず耐えてしまう。我が家に来た以上、出来る限り好きにさせてやるから。少し文句を言っても良いんだぞ。と思うがダイ君は黙って今も寝ている。