ウクライナ戦争停戦の可能性が

国連は、2月24日の第11回緊急特別会期の総会において、ロシアの戦争犯罪に対する「公正で独立した調査と訴追」の必要性や「露軍の即時・完全・無条件の撤退要求」などを盛り込んだ決議を採択した。この採択には戦争は終わらせろという、世界の思いが表れている。
全加盟国193か国のうち141か国が賛成し、緊急特別会期の総会で重要問題の採択に必要な投票の3分の2以上を確保した。ロシアやベラルーシ、北朝鮮など7か国が反対したらしいが、困った国だ。中国やインドなど32か国が棄権した。
この時期に併せたように、習近平のロシア訪問が発表された。ロシアは軍事支援を期待して、習近平のロシア訪問を要請していた。中国はロシアに武器提供ではなく、和平を進めるつもりなのだろう。中国がロシアの停戦を促すことが出来れば、中国のアフリカ諸国などの支持は高まるはずである。
習近平がロシアに出向くと言うことは、平和停戦の方向性が導き出せる可能性を見ていると考えて良い。中国の外交部は、停戦や和平交渉の再開など12項目からなる「ウクライナ危機の政治的解決に関する中国の立場」と題する文書を公開した。良く出来ていると思う。
アメリカは評価していないが、これは一つの提案としては価値があると考えるべきだ。この文章に基づき、プーチンに和平を推進するように説得すると言うことになる。プーチンと会った後、ゼレンスキーとの電話会談も予定されていると言うことだ。成功を祈る気持ちだ。
①各国の主権の尊重:国連憲章の趣旨と原則を含む、公認された国際法を厳守し、すべての国の主権、独立、領土の完全性を適切に保証する。
②冷戦思考の放棄:地域の安全が軍事ブロックの強化によって一国の安全が保障されることはない。
③停戦、戦闘の終了:紛争に勝者はいない。
各当事者は理性と自制を維持し、火に油を注がず、衝突を激化させず、ウクライナ危機をさらに悪化させたり、制御不能となることを防止し、ロシアとウクライナが互いに歩み寄ることを支援し、可能な限り早期に直接対話を再開させ、徐々に事態の沈静化と緩和を進め、最終的に全面停戦を達成すべきである。
早急に直接対話を再開し、最終的に全面的な停戦を達成することを支持する。
④和平交渉の再開:対話と交渉は、ウクライナ危機を解決する唯一の実行可能な方法である。危機の平和的な解決に資するあらゆる努力が奨励され、支援されるべきである。
また、国際社会は和平を促し対話を促進するという正しい方向を堅持し、紛争の各当事者が危機の政治的解決への扉をできるだけ早く開くことを助け、交渉を再開するための条件を整え、プラットフォームを提供すべきである。
中国はこの点で引き続き建設的な役割を果たす。
⑤人道的危機の解消:人道危機の緩和に資するすべての措置が奨励され、支援されるべきである。
⑥民間人や捕虜の保護:民間人及び民生用施設への攻撃を避け、女性や子供などを保護し、捕虜の基本的権利を尊重する。
⑦原子力発電所の安全確保:原子力発電所などへの武力攻撃に反対する。
⑧戦略的リスクの低減:核兵器の使用および使用の威嚇に反対する。
⑨食糧の外国への輸送の保障:ウクライナ穀物輸送の履行
⑩一方的制裁の停止:国連安保理の承認を経ていないいかなる一方的制裁にも反対する。
⑪産業・サプライチェーンの安定確保:世界経済の政治化、道具化、武器化に反対する。
⑫戦後復興の推進:中国はこれに助力し、建設的役割を果たすことを望んでいる。
中国が全面的にロシア支持を打ち出すことは不可能である。ロシアの侵略が国連憲章の精神から完全に逸脱している。中国は常々、国家主権や領土保全を国連憲章に基づき、重視するとしてきた。その従来の中国の立場とも合致しない。
ロシアはウクライナ東・南部4州の占領地域で住民投票を実施し、4州の併合を宣言したが、新疆ウイグル自治区や台湾問題という、中国は深刻な独立問題を抱えている。中国にとっては受け入れられる話ではない。台湾もウイグル自治区も、住民投票では、独立を主張するのははっきりしている。
ロシアは強力な経済制裁を受け、国際的にも孤立し影響力が低下していくことは明らかになっている。ロシアに武器を提供するなどして、ロシアと歩調を合わせることは、中国への経済制裁が始まると言うことになる。中国は避けなければならないことと考えているはずだ。
中国にはロシアとの関係を強化しておきたい理由がある。中国にとって、米国と戦略的競争を展開するためには、ロシアとの安定的な協力関係が不可欠である。また、中国とロシアは共に米国から強い圧力を受けており、ウクライナ情勢への米国の「介入」は中国にとっても他人事ではないと受け止められたのであろう。さらに重要な点はロシアとの経済関係である。ロシアが世界から経済封鎖される中で、中国は独占的に経済関係を持てる有利さがある。
以上の状況を考えてみると、習近平はプーチンに武器提供は出来ないと考えているだろう。そして、ゼレンスキーにプーチンに停戦を求めるから、ここまでは譲れと言うのでは無いだろうか。このまま、ロシアの侵略が続けば、ウクライナ側も西側の武器援助を受けて、反撃能力が高まるはずだ。
アメリカが今回の和平提案で納得するかどうかである。習近平の提案は全面的とまで言えないとしても、一定評価されるべきものだろう。この機会にアメリカが譲れるかどうかが大きい問題と思われる。アメリカがゼレンスキーに和平を進言できるかである。
アメリカの本音は戦争が長引き、ロシアが疲弊するのを待ちたいのだろう。しかし、中国とインドが、ロシアとの経済的関係を強めるとすれば、ロシアへの経済制裁の効果はどこまでも限定的にならざるえないだろう。経済戦争のダメージはヨーロッパが一番影響が強いはずだ。
NATOは戦略上ロシアの弱体化を望んでいるだろうが、これ以上長引くことも各国の国内事情から出来ないだろう。そろそろ、和平の時が来ているような気がする。それを踏まえて、習近平はロシア訪問に踏み切ったと思う。何とか和平が実現してくれるように祈っている。