TPPによる農業への影響

   

いよいよTPPが発効になった。日本の農業がどう変わるのか。大きな影響があるはずだ。政府の試算でも、数千億円の農業生産が減少するとしている。今年の稲作の作付面積は5%ぐらい減少するのではないかとされている。自由貿易は良いことである。関税の撤廃も悪いことではない。しかし、国家の維持のために、食糧生産をどうしてゆくのかは、成り行き任せというわけにはいかない。農産物は自然環境に大きく影響を受けるわけだから、ただ国際競争力で峻別すればいいというものではない。過去植民地に広がるプランテーション農業が地域の食糧生産農業を崩壊させてきた歴史的事実がある。プランテーション農業は換金作物ということで、主食作物が競争力を失う。企業経営としては利益が上がる。だから、食糧生産の為の農地が失われ、国際競争力のある作物に転換されてゆく。このような地域農業崩壊がプランテーション農業の広がった地域で起きた飢餓の原因になっている。経済主義で動く先進国の思惑が、食糧不足の後進国を生み出している。

世界全体の農業を考える上では、主食生産とそのほかの作物は別枠で考えておく必要がある。確かにお米の輸出も増加している。国際競争力のあるお米も存在はする。同時に、失われる稲作の方がはるかに大きいということが現実である。日本においては稲作をどうするのかがTPPに伴う問題になる。これは日本文化の消滅という事でもある。農業者は2030年には半減するという予測がある。団塊の世代が農業ができなくなったときに起こることである。稲作農家でも小さな自給的農家は急激に減少し、外国人労働者を雇用する大型企業的農業がひろがる。問題は大型企業的農家は国際競争力を前提に、生産性のある農業だけを考える。生産性の悪い中山間地の小規模農地であれば、手が付けられないということだ。これが、さらに日本の地方を疲弊してゆく要因になってゆくことだろう。予測されるこうした危機的事態に対して、TPPは拍車をかけることになるだろう。農地法は無力化している。農地が放棄され消滅してゆくような地域と、企業的な農業が可能な地域を色分けして対応しなければならない。このまま、農業政策が国際競争力に翻弄され、中山間地域が見捨てられたような状態であれば、日本の稲作は突然、崩壊をするようなことになるに違いない。

本来主食作物は自由貿易の枠から外すべきものだ。主食に関しては貿易量は10%までという上限を決めたる方がいい。それぞれの国が、まず主食を確保できる状態を優先しなければならない。それは世界の安定化には必要なことだ。食糧自給は国家という枠組みを安定化するものだ。食糧の不足から、国家が不安定化して様々な問題が起こることが多い。TPPで自由貿易が行われることは、産業によっては必要なことだ。しかし、国際競争力という物差しで食糧まで標準化されてしまうのでは、国家というものが壊されてしまう。国家というものは守らなければならないものだと思う。経済が国を超えて国の枠組みを壊し始めている。

それぞれの国柄というものは大切なものだ。その意味では私は国粋主義者なのだろう。私という個がよりよく生きるためには、わたしを取り巻く日本人という枠組みは意味がある。日本人という民俗である。稲作を大切にする気持ちである。ご先祖を敬い、子孫に日本文化を残してゆく思いである。この日本文化という枠が深く大きければ大きいほど、私という枠を深めてゆくこともできる。私はたまたま寺院に生まれ、曹洞宗という道元の禅に触れた。そのおかげで、実に精妙な人間の在り方を教えて頂くことができた。中国の禅とも、インドの禅とも異なる、日本の自給自足に基づく生き方である。人間というものが分からなければ、国がどうあるのが良いのかはわからない。日本という国がまず第一である。それは、決して独善のものではなく、国という枠組みのの中にも、無くすべきものと、残すべきものがあるという事だと思う。中国鎮江市の田んぼに入った時に、そういう事に気づいた。全く水の流れようとしない田んぼの中で、違う世界が成り立っているという事を知った。

 

 

 - Peace Cafe