2010年の稲作

   

見事に今年の稲作も一巡した。田んぼには後片付けの藁束が残るぐらいで、まつりの後のようで少しさみしい景色である。稲作をするということが、景色を作っているということが良く分かる。景色を作れる仕事が出来る。これほど愉快なことはない。棚田が注目されて、棚田100選などと観光地のように言われるが、身近な田んぼ一枚、一枚が暮らしの景色を豊かないしている。舟原田んぼを写真に撮ったり、絵に描いたり、それは様々な人が楽しんでいる。通りがかりの人が、美しいと目にとめてくれる景色を作る仕事。お天道様に認めてもらえるような、有難い仕事である。田んぼには冬の緑肥となる、クリムソンクローバーが蒔かれている。稲が無い間、田んぼが花畑になる。麦を作れればいいのだけれど。これが案外に作業的に難しい。畑は沢山あるのだから、田んぼに作るより畑に作ろうというので、今年は少し広げて麦を蒔く。

今年の田んぼは豊作であった。やはり棚田にはこの暑い夏は悪くなかったようだ。さなごも無い訳ではないが、粒張りも全体としては悪くはない。合格点のお米になった。ハザ掛けしてからのイノシシの襲来さえ無ければ、9俵は行った。実際は1300キロの収量で、8,66俵である。手植えの田んぼでは、限界に近い収量かと思う。土づくりの方向が間違っていない事が確認できる。もう少し土が良くなれば、畝採りも夢ではないかもしれない。土が良くなると言っても、本当の成り立ちまでは分からないが、体験的な土づくりでは「腐食を増やすこと」だと考えている。但し、単純に藁を漉き込むようなことでは、土を痛めてしまう。藁を入れたいなら、藁を堆肥化して、その堆肥を入れる。冬の緑肥も腐食を増やすためである。この場合でも麦を作り漉き込むというような土を痛める。イネ科の植物は漉き込まない。表面に使うか。堆肥化して入れる。身に沁みて、土づくりは腐食を増やすことに尽きる。

もう一つの柱が、良い水を使うことである。今年は6月に入って、水温が上がった。これは何か不安な兆候で、山全体に何かが起きていると感じた。やはり記録的な猛暑になった。水温が1度上がれば1俵増えるという、棚田の話は本当であった。水温の確保を来年も最重要項目と考えたい。土が良くなれば水持ちが良くなり、田んぼの水温は上がる。同時に夏場の流し水管理である。夜温を下げるために、夕方から入水して朝止める夏場の水管理を行う。深水管理。深水に耐えるように畔をしっかりと作りなおす。田んぼ全体の平均を保つように、土の移動も行う。最後まで水を保つことは必要なことだが、収量が増えるということは、倒伏することにもつながる。干し田をどう入れるかは課題である。最後の10日は水を切るとして、出穂までの干しをどう入れて行くかである。どのタイミングで干すのが一番稲にとって障害が少ないのか。干すことで、土壌微生物は変わる。このことが土の腐敗とどのようにかかわるのか。研究課題である。

そしてイノシシ対策である。イノシシに60キロ以上のお米を食べられてしまった。ハザ掛けしてからのことである。心にとって衝撃的なものだった。罠でなんとか捕まえたい。ハザ掛けを田んぼやらないで、天日乾燥することも考えなければならない。機械小屋のハウスにしっかりとしたハザ掛け用のパイプを設置して、置くのもいいと思う。いずれイノシシは大問題である。今年は舟原田んぼの仲間に様々なことがあった。それでも田んぼで会うことはできた。会って何か伝える言葉も見つからないのだけれど、お互いに田んぼはとって少しは支えあえたのではないかと思っている。そういうことも含めて田んぼなのだと思う。みんなで元気に田んぼが出来るのが一番である。来年も今の形で田んぼが出来そうである。体力的にはいくつまで出来るのであろうか。80歳でも田んぼをやっている人はいるようだが。せめて、70歳まではやりたいものである。

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