久野のカモシカ

   

久野でカモシカに出くわした。2年前に同じ場所で見たから、舟原にはカモシカが住みついているのかもしれない。早朝犬の散歩に行く。山の中をあちこちを歩きまわる。2年前は11月になっていたと記憶している。あの時も犬の散歩で歩いていた。なにしろ、舟原の山は人が入らなくなっている。昔は畑だったと思われる、痕跡はあるのだが、すっかり山に戻っている。大抵はスギかヒノキの植林である。暗い寂しい林である。少し開けたところがあると、青草が茂っていて、そういうところで草を食べているようだ。ミミズでも食べるのか、掘り起こしたような跡もある。シカが出たという話は良く聞くが、カモシカを見たという話はまだ聞かない。シカほど目立たないし、遠くで見るとイノシシだと思う可能性が高い。ずんぐりむっくりで、イノシシに近い大きさである。違うのは、目がとても大きく清々しい。静かにこちらを見つめて、一瞬ためらうように振り向くと、慌てるでもなく林に戻って行った。

カモシカは子供の頃激減したというので、特別天然記念物に指定された。猟をしていた人の腰には、普通に尻皮はカモシカだった。カモシカ皮は汗腺が無く、湿地に座っても浸みてこないので、尻皮には一番だと言われていた。安物は犬皮。猪で作ったという猟師の記憶もある。なんとなくステータスで、山男気取りはこぞって付けたがった。結構売っていた訳だ。甲府の金物屋に、つりさげられていたのを見た記憶もある。しかし、1000人とかいう猟師が、密漁で捕まったという新聞時事もあるので、まだ結構山にはいたのだろう。それでも1000匹はいなくなったということが、特別天然記念物の指定理由だったから、ある時期激減した。その後、長野大町の方で飼育に成功したという話も聞いた。今でも飼っているのだろうか。そういえば、兄はどこかで手に入れたカモシカの尻皮を持っていたが、どうしただろうか。

先日のテレビでは、嬬恋村の高原キャベツがカモシカの食害で困っていると流していた。カモシカも、狩猟対象で無くなって、人間が怖いという記憶が薄れてきたのだろうか。人間と野生動物のかかわりはとても難しい。日本のように狭い国土で、共存して行くには人間の方の暮らし方をよほど考えないことには、上手く行かない。イノシシの食害問題は舟原でも深刻である。田んぼをやられる、毎朝気が気でない。すぐ下のミカン畑を、すっかり掘り起こしている。下の家の田んぼも、上の家の田んぼも踏み荒らされた。缶からをつるして、犬の布をつるし、髪の毛をつるし、何とか防いでいる。果物は大体、ハクビシンにやられる。サルにはトマト。そのうちアライグマが登場するだろう。もしかしたら、この前やられた、トウモロコシはアライグマかもしれない。

犬の放し飼いを復活すれば、一遍で野生動物の被害は無くなる。昔、境川でイノシシが急増した時期があった。富士山麓の米軍の演習のせいだと言われた。そこで芦安から甲斐犬を連れてきて、放し飼いにした。驚くように効果てきめんで、その日からというほど現れなくなった。昔の暮らしは暮らしで合理性があったのだ。都会の暮らしの「キャー犬が恐い」などというおかしな感覚を、田舎にまで持ち込ンだのが間違い。鶏の声がうるさい。臭いがどうだ。犬は放してはならない。それはそれでいいのが、ちゃんとしっぺ返しが来ている。山村での暮らしが、成り立たなくなって、山から里に車で勤めに出る時代だ。江戸時代の暮らしの合理性は十分に学ぶ必要がある。イノシシも、カモシカも、悪い訳ではない。折り合いの付け方の分からない暮らしが悪いのだ。

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