日産ゴーン事件と日本の司法制度

   



 保釈中のカルロス・ゴーン元日産社長がベイルートまで脱出を計り成功した。そして、日本の司法制度を批判する記者会見を行った。断片的にでは有るがみた。中々迫力のある会見であった。
 森法務大臣もそれに呼応して、緊急記者会見を行った。日本の司法制度は公正なものだ。被疑者の人権も守られている。日本の司法制度の中で身の潔白を主張すればいいと主張した。やや説得力に欠けていたかと思う。
 世界の常識的な目から見れば、日本の司法制度は相当にひどいらしいと感じたことだろう。日本という国の評価が随分下がったに違いない。日本は安全な国だと思ったが、外国人にはそうでもないらしいという評価が生まれたのではないか。

 私にはゴーン氏の主張の方が世界では通るように思える。ゴーン氏は有価証券法違反と言うことで逮捕されている。要するに税金をごまかした、あるいは虚偽の会計報告を行ったという疑いである。税金は大事だとは思うが、即座に人に危害を加えるおそれがある犯罪ではない。100日も保釈をしないと言うことが許されるとは思えない。

 事件の本質は日産社内のクーデターである。社内でおかしいと気づいたのであれば、まず社内で問題にして、解決するのが普通のことだ。日産に自浄能力が失われていたので、検察の手を借りたと言うことではないか。外国人支配排除も感じられる。

 ゴーン体制に抵抗できないために、検察に社長の犯罪を訴え協力を取り付けたのだろう。内部告発でゴーン体制にクーデターを行った。ところがそのクーデターの首謀者である。後任の社長の西川氏も同様の背任行為を行っていて、社長を退任した。何故か、告発した西川氏はおとがめなしで、ゴーン氏は独房に100日以上監禁である。

 企業にはこうした犯罪と言えるのかどうかのギリギリの節税対策はいくらでもあるのだと思う。特に税金に関わることは、やりようで犯罪が節税と言われるものもあるのだから、会社内部で解決出来る可能性も高い。

 こうした検察と日産クーデター派の意図するところは、日本の日産がフランスのルノーの言いなりになるわけにはいかないという背景がある。ルノー経営者でもあるゴーン体制のままでは、ルノーに日産の利益を吸い取られてしまうと考えたのだろう。

 ゴーン氏が独裁者で、手に負えなくなったと言うことなのだろう。そんな過激な人だから、倒産しかかった日産を建て直すことが出来た。当時は英雄のように持ち上げていた。ルノーを今になって排除するというのも、助けて貰って置いてなんなのかという側面もある。まあ、人情で動いているわけではないから仕方がないが。

 そんな、複雑な社内事情でクーデター派は司法取引の上で、ゴーン元社長のあらゆる犯罪的行為を検察にさらけ出したのだろう。しかし、それが明らかに犯罪なのかどうか、少なくとも長期間拘留しなければならないことなのかどうかには疑問がある。

 クーデター派は勾留している間に、ゴーン氏を株主総会で社長から解任をしてしまった。もし無罪であるとしても、拘留されていたために、反論さえ出来ない状況である。このやり方はすべてクーデター派の筋書きと言えるのではなかろうか。汚いやり方とも見える。

 カルロス・ゴーン氏の108日に渡る長期拘留は日本の司法不当性を表している。人質司法と呼ばれているものだ。犯罪を認めない間は保釈をしないのだ。それはえん罪であろうが同じである。

 厚生労働省の村木厚子局長が大阪地検特捜部に逮捕・起訴され、一審で無罪判決が出て確定した。その過程で、主任検察官の証拠改ざん事件が発覚し、検察全体が激しい社会的批判を浴びた「特捜検察不祥事」である。その後、厚労省事務次官にまでなった村木氏が、起訴事実を全面否認していたことから164日にわたって勾留された。これが「特捜的人質司法」である。

 そもそも凶悪犯罪の場合、保釈した場合又凶悪な犯罪を犯す可能性がある。しかし、村木さんの場合や、ゴーン氏の場合は一般の人達を危険にさらすようなことはない。証拠隠滅だけの問題である。

 検察の手法の実態は、長期拘留で精神的に追い詰めて、自白をさせると言うことが主目的である。村木氏もゴーン氏もすごい胆力の人だから耐えきったが、普通の人ならひとたまりもない。この検察の手法は人権を軽視している。間違ったやり方である。
 ゴーン氏は日本から脱出して世界に訴えれば、自分の主張が認められると考えたのだろう。このまま日本の裁判に進めば、自分は犯罪者にされてしまうと考えたに違いない。
 ゴーン氏は日本にいたのではまともに反論する場を与えられていない。情報は一方的に検察から出てくる。世間は垂れ流しの検察リーク報道を読んで、ゴーン氏が相当にひどい犯罪者だと先入観を植え付けられてしまっている。記者会見に日本の報道機関の一部を除外したという所にそれが現われている。
 ゴーン氏は検察によって、国外逃亡という犯罪者になった。しかし、これがえん罪である場合、どういうことになるのだろうか。えん罪で逮捕され刑務所にいた人が、脱獄した場合、犯罪になるのだろうか。日本でまともな裁判が期待できない場合、ゴーン氏はどうすれば良かったのだろうか。
 村木氏は支援団体が出来て、大きな応援があった。日ごろからそんな犯罪を犯すはずのない人だと信頼された人だったからだ。その支援の声がとどいていたから、頑張れたと語っておられた。
 ゴーン氏の場合、そうした応援の声は出てこない。どちらかと言えば外国人だからやりそうなことだのような、差別的な空気すら感じられた。くわえて、大富豪へのやっかみ感情すらある。このままでは危ないと考えたゴーン氏の判断は間違えとは言えない。
 西川元日産社長はこの記者会見に拍子抜けした。何の証拠も出なかった。等と安堵していたが自分の犯罪はどう考えているのだろうか。報道の大半はゴーン氏の会見では無罪の説得力がなかったと言っている。なんとも頼りない見方だ。証拠をこの段階で出さないのは当たり前だろう。裁判が待っている中で、この段階で証拠を出すわけがない。それが戦い方だ。
 いずれにしても,たとえゴーン氏が有罪であろうとも、日本の検察の自白するまで、保釈はしないという人質司法のやり方は、再犯の可能性がない場合は変えなければならない。それがえん罪を少しでも減らすためには必要である。
 

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