ひこばえ農法(サリブ農法)の経過観察。

今までに農業としてはひこばえ農法が成立しなかった点は2つある。一つはひこばえから始まる2期作目の収量が極端に低くなることである。石垣島の気候では稲刈りをした株から出てくるひこばえは、ほぼ親株と同じ数のひこばえを再生させる。ところがこうして出てくるひこばえは、いわば無効分ゲツ状態である。
切り取った株の茎の断面から分ゲツ数と同じだけひこばえが再生してくる。そのイネ株は弱いひょろひょろのイネ株になり、小さな穂を付けてアオ米を実らすのがせいぜいである。たまたま気候や雨による水分量が上手く行ったとしてもせいぜい田植えした稲に競べて、30%ぐらいの収量しか成らない。しかもそのお米の品質はかなり悪い物だ。たぶん今の日本では販売は出来ないお米であろう。
もう一つはひこばえが一斉ではなくバラバラに成長する株になる。穂がバラバラに成熟してしまい、稲刈りをを一斉にすると言うことが出来ない。この2つを克服しなければ、農法という名に値する物にはならない。そのためにフィリピンではかなり本格的に試みたが、不可能というのが結論だったという。

2度目刈り取って再生してきた5日目。今度は強い苗になるかどうか。
インドネシアスマトラ島に存在したサリブ農法がこの2つの難題を克服したというのだ。それなら、石垣島で出来ないはずがない。しかも二年間で7回のの収穫があり、毎月稲刈りをするという。もしサリブ農法が実現できたら、自給農業に最善の農法になる。新しいのぼたん農園の目標をここにすることにした。
10日稲刈り後3週間そのままに置いておいた0番と1番の田んぼを再度刈払機で短く切り払った。また、2番と4番は刈払機で稲刈り後1週間目に五センチ以下を目標に草刈り機で刈りとった。このまま置いておいたのでは、良い苗が出来るとは思えなかったからである。この時点で、サリブ農法には根拠があると思えた。
サリブ農法の技術を参考にして、2度刈りをした。まず、サリブ農法が成功した理由を考えなければならない。たぶんスマトラ島の手刈りをしている地域なのだろう。その手刈りが、20㎝ぐらいの高刈りだったと考えていいだろう。そういう手刈りの地域は普通にある。

高刈りして5日目の様子。1週間でもう一度刈り取る。
稲刈り後の株から出てきたひこばえは強い苗には成らずに、すぐ弱い穂を付けてしまうはずだ。昔はそれをも食べていたのかも知れない。そういうことは石垣の田んぼでは普通に起きていることだ。それを強い苗を再生させるためには、どんな工夫をすれば良いのかと検討を始めたのだろう。
サリブ農法では、2つの要素が必要だったと想像できる。まず稲の根を枯らさないことだ。水を完全には落とさないことが一つ。もう一つは長期連続灌水によって起きる、土壌の還元化をどのように防ぐのかである。元気なイネの根が枯れずに生き続けなければならない。
そして、再生ひこばえが稲の新しい苗になるためには、古いイネ株の残渣のような遅れ株ではだめということがわかる。ではどのタイミングで、どのくらいの苗を残して仮払いすれば、次に出るひこばえを再生稲株に変化させることが可能になるのかである。これはなかなか難しいことのようだ。

田んぼの土は湿り気がある位を目標にして管理している。
根を元気に維持する2つの要素は水管理の変化と、稲の刈り取りのタイミングと高さが重要になりそうだ。肥料を入れるタイミングについてはそれほど重要とは見ていない。上手く新しいイネ株を再生することが出来たならば、良いタイミングで追肥をすれば、普通の稲作に戻るはずだ。
あくまで強い再生苗を出すことが重要になる。長期間同じ株の根が生き続けるためには、土壌の条件が良くなければならない。腐敗土壌では難しいだろう。例えば光合成細菌が居るような土壌であれば、根は枯れることがないだろう。
水管理については稲の根を枯らさないと言うことは、あしがら農の会で長年試みてきた。簡単に言えば、干しを入れないで、水を切らさない流水管理である。新しい水がいつも流されていれば、土壌は比較的還元化しない。溶存酸素が多い水が重要になる。間断灌水も必要なことだ。

そしてコロガシである。コロガシを入れれば、土壌の還元化は防げる。サリブ農法では行っているようでもないが、コロガシをして草を抑えることは必要なはずだ。還元化が起きた場所には籾殻クン炭の投入して転がせばかなり改善できるはずだ。
強いひこばえを再生させるためには、高刈りが必要とは言い切れないとみている。これはインドネシアのサリブ農法の地域が、手刈りの高刈り地域だった事に由来しているのだろう。一応40㎝ぐらいの高刈りの比較実験の部分を作ってみたので、今後の観察である。
現在高刈りした株からは弱い穂がどんどん出てきている。この株を1週間後の明日、2回目の刈り取りを行う。2回目の刈り戻しの高さがサリブ農法の3から5㎝というのは意味があると思う。あえて、1㎝ぐらいに刈り取ったイネ株もある。むしろさらに短い寝際で刈り取る方が良いように考えているがどうだろうか。
その当たりの再生の違いを観察してみようと思っている。水没させないで再生させるという事は必要かも知れない。苗の再生には淺水管理が一番である。と言っても強い再生苗を出すと言うことは、まだ何か他の条件があるかも知れない。
肥料については稲刈り1週間から2週間前に入れるという考えのようだ。2,3,4番ではそのようにしてみた。今度は稲刈りした直後に入れてみるという実験を7番田んぼで行ってみたい。堆肥を入れる場合、稲刈り後に入れた方がはるかに楽だからだ。土壌が良いものであれば、投入の時期はたぶんたいした違いはないと見ている。