アトリエ展のように。

   



 最近描いている絵だが、石垣島の海の色が少し描けるようになってきた。あの美しすぎるような色にはまだ及ばないが、少し海らしくなってきた。染まるような群青。引き込まれるエメラルド。この二つが同時にある海のすごさ。
 素描を同じ場所で描いてもいる。素描をしていて、色彩というものがいかにすごいものかが見えてきた。何故透明な色調が必要なのかと言うことも見えてきた。絵は描いてみなければ分からないことばかりだ。
 石垣島のアトリエにやっと絵をきちっと飾ることにする。石垣にアトリエを作るときから、絵を展示できるようにしたいと考えた。ライトや吊り下げ金具は設置してある。それでもなんとなく絵を飾りたいとまでは思えなかったので、ぐずぐず延ばしていた。

 いつまでもそんなことも言っていられないので、並べてみようかと思っている。やっとそう思い立ったのは、3月27日から水彩人の仲間が石垣島に来てくれることになったからだ。アトリエにも来てくれるので、せっかくだから絵を語る会のように、絵を見て貰おうと考えた。

 以前から絵をきちっと飾ろうとは思っていたが、まだまだと言うことで先延ばしにしていた。個展をやるというわけではないが、ひとつ区切りを付けることになるかという気持ちもある。

 自分で自分の絵が正しく見れるようにしたい。今回水彩人の仲間9人が石垣島に来てくれるのはそのための良い機会である。この機会に自分の絵をきちっと飾ったアトリエにしておきたいと言う気持ちになった。

 展示の機会を作れば、少し絵をまとめる意識ができるかもしれない。実はそう考えた。どの絵もどの絵も、途中で終わっている。最後の結論が出せないでいる。何か踏ん切りがつかないところがある。結論を出すようにまとめようと思う。

 3月後半までまだ一月半有る。この間に石垣島に来てからの仕事の総括をしてみるのもいいと思う。この1年半で変化してきている気がしている。絵はダメになるにしても、変わらないよりも変わる方がいいと考えている。
 利根山光人先生は等々力のアトリエで個展をされていた。クロッキーに通っていたので、いつも見せていただいていた。アトリエを外に開くと言うことを先生は言われた。アトリエは外に開いてるから本当の制作ができると言われたことが、記憶に残っている。

 絵は常に途上なもののような気もする。結論は死んで終わったときだろう。生きている間はこれでできたと言うことにはならないのかもしれない。次の絵を描く気持ちがある以上、動いているものであって欲しい。自分の絵を踏襲するような事だけはしたくない。

 絵はそのときそのときの自分というものと向かい合うものだ。目の前にある風景を見ながら、それを見ている自分を確認している。少し絵から離れているといってもいい。見て描くと言うことを一番大事にしている。

 それでも描かれたものが見ているだけでもなく、何か自分の作為のようなものが入り込む。その描く行為のなかに無意識が現われて来るものを感じている。この無意識の作為とよぶしかないようなものが、今どの当たりにあるかを並べて確認してみたい。

 意識しているものでもないのだが、何故かある方向に動いている。絵が自分らしくなるという方向である。そうであればいいのだが、ここがなかなか微妙なことなのだが、自分が納得の行く描き方でありたいということである。

 この数年間は見えたままに従い描くということを第一義に置いていた。ところが、このところ見えたままでなく、絵としてどうかということに向かっている。意識してそうしている。

 それが今の自分の充実のような気がして絵を描こうとしている。ただ写生すると言うことから、制作をしようとしている。思いが少しづつ動くのかはわからないことなのだが、周りからの刺激や自分の心境の変化のようなものが、絵に表れてくるのだろう。

 5年ほど前だと思うのだが、自分の絵を突き詰めるためには一度しみこんだ絵らしきものを描くと言うことを清算しなければならないと思うようになった。自分の絵の限界のようなものを感じたのだと思う。

 もっと正直にダメな絵でも良いので、自分と向かい合って描きたいと思うようになった。いよいよ自分というものが絵を描く最後に向い合ったと言うことなのだろう。このままでは違うという気持ちになった。

 これは今までのものを何とか払拭しなければ、自分の絵を模写するようなことになりかねない。何かでっち上げたような自分を磨いているようなことだけはやりたくなかった。もう一度、何も無い所に戻り最初からやり直せればと考えた。

 そんな気持ちが続いていたと言うことも、石垣に来るようになった一因なのだと思う。描く場所も変えれば、何か変われるかもしれないという希望のようなものもあった。ここより先に進むためには他に方法がなかった。

 そうして、石垣島に引っ越してきた。石垣島は予想以上にすばらしい場所だった。家から30分行けば、絵が描きたくなる場所が10数カ所もある。その時々の季節、天候、気持ちで、描く場所を決めて描くことができる。全く尽きることがない。

 まだ一年であるが、この調子で10年やれればどこかへ到達できるかもしれないという気持ちが湧いてきた。それでますますやる気が出てきた。今日は何を描く自分が現われるだろうというような、期待感がある。

 やっとこの自分というものの現状に向かい合う気持ちがでてきた。そこでアトリエに絵を並べてみる気持ちになった。中盤全紙で10点くらいは並べられる。

 ライティングもきちっとしたい。今は昼間は天窓からの光で良いのだが、夜は絵がよく見えない。夜も昼間のように見えればと思う。

 - 水彩画