伊勢原木村麹店の見学
木村麹店内部の様子
麹づくりを始めてもう20年以上たった。あれこれやり方を変えながら、今は米袋方式に行き着いた。一般家庭の環境で、初めての人でも失敗をしない米袋方式である。今まで麴屋さんのやり方という事を見たこともなかった。自己流の試行錯誤である。今回伊勢原の下落合にある木村麹店を見学させていただいた。その昔、私の作る玄米卵を販売してくれていた島田啓介さんの紹介である。島田さんはみんなで作る噌づくりをやられていた。それに参加したのが、私の初めて味噌作りだ。南足柄の内山の田んぼでのことだ。自給が基本なので味噌づくりのための大豆を栽培するようになった。お米も麴も自分で作り始めた。今回の見学は農の会に参加している森田さんが準備してくれた。
麹室入り口
木村さんが繰り返し言われたのは、「良い麹が出来ればそれが正解だ。」という事だった。ものづくりには10人10色の正解がある。他の麹屋さんとは自分のやり方は違う。自分のやり方はあくまで商品としての麹の作り方という事であった。例えば色は白いほど良い。それがお客さんの好みだからだ。麹の米粒はパラパラの方が良い。それは計量しやすいからだ。その結果スーパーで売られている、みやこ麹とはまるで違うものになったのだ。みやこ麹は菌が長毛菌なのだと言われていた。ああいう風に固まるのでは自分は小分けするのに手間がかかりすぎて困るとも言われた。麹も分けてもらってきたので、甘酒とどぶろくにしてみるつもりだ。味はどうなるのだろうか。私の印象としては味噌麹としては発酵が浅い感じがした。その点を聞くと、麹の菌にはピークがあると考えている。その最高の時で、出麹にするという事だった。私は行き過ぎのたぶん限界まで発酵を持って行き、発酵が自然に終わるところまで進める。麹菌が米粒の奥の方まで浸透するのを待つ気持ちでやっていた。麹菌は発酵を続けることで、作り出す酵素が増加してゆくのではないかと考えていた。
蒸気発生装置と蒸し釜
作ってみて味噌の味はどうかと言われると、正直同時に食べたことがないので、その違いはよく分からない。どちらでも味噌になるという事は確かだ。味噌自体も6か月で食べた方が美味しいという人も居るし、2年物が美味しいという人も居る。これも10人10色の味覚がある。
木村さんのお話のメモ
1、手入れについては8時間サイクルで4回という事だった。この点はほぼ同じ。
2、麹菌を植え付けるときは上からパラパラと撒くだけだそうだ。これにはびっくり。
3、出麹して冷ましてから、塩を1割混ぜて発酵を停める。味噌づくりには向いている。油断すると冷蔵庫の中でも再発酵をする。
4、4回の手入れの際はお米は出来るだけパラパラにする。固まるとその中には麹菌は入らないままお米が乾いてしまう。
5、お米は強い蒸気で40分蒸す。大豆は蒸すと黒くなるので商品には向かない。
6、麹室湿度は95%でやる。室温は20度。
7、麹作りに良い季節というのはない。寒仕込みの思い込みは2月が忙しくなるので困る。あえて言えば9月ごろがやりやすい。
8、熱湯消毒が一番。アルコール消毒も気休めで使う。
9、部屋の麹菌を使う手法はよほど良い環境の所だけのこと。
10、お米はインディカ米が良い。新米より古米が良い。
11、出来た麹は紙袋に入れて、ビニール袋に入れない。
手順を説明されている木村さん。
4月末には廃業をされるそうだ。70を超えて身体もきつくなったそうだ。それで施設を取り壊してしまうという事だった。大型冷蔵庫の中に、加湿器を入れて麹室にしている。その冷蔵庫は不要になるので、農の会にあげても良いとのことだった。お米の保存庫になるし、味噌の保存蔵にもなりそうなので頂ければありがたい。その他舟の大きなものや、プラ桶、大釜など、必要なら分けてくれることになった。長年使われてきて愛着もあるだろうから、心中残念なことだろう。仕事じまいという事は誰にでも来る事だろう。私のような人間でも養鶏場を止めるときは切ないものはあった。物を廃棄処分するという事自体が、身を切るという事と変わらない。自分の生きてきたという事を廃棄処分にするような切なさがある。だから、誰か後継者にという事なのだろうが。私は後継者は嫌いだ。どんなことでも独力で新しく始めるから面白いと考えている。