石垣ウサギ屋本店

   

 

三線を稽古している。5分だけでもともかく手に取るようにしている。石垣にも三線は持ってきているぐらいだ。石垣島に田圃を見に来た。日本の最南端の田んぼを絵に描きたいと思ったからだ。いい場所が見つかり描いた。マングローブの密林だったところが切り開かれ、田んぼになったということがよくわかる。そのことは別に書くにして、もう一つの目的が石垣の唄を聞くことだった。石垣は大島保克さんの生まれた島だ。ビギンも、夏川りみさんも、ニイヤマ兄弟も、ヤナバラバーも、そして大工哲弘さんも石垣の人だ。石垣の唄が好きだ。石垣には沖縄本島とは違った歌があるのだそうだ。八重山は歌の島である。伝統的な歌謡は古謡だけでも800曲を超え、節歌は150曲に及ぶとある。旋律の美しさは言うまでもなく、その詩句は他の地域の歌と比べて自然に対する観察力が優れ、情感が豊かで格調高即興で歌われる抒情歌「トゥバラーマ」も含まれる。

「トゥバラーマ」の大会では、新譜コンクールというものがある。その年の一番の歌詞に賞が与えられる。どうも即興で歌われるものであり、歌い方はそれぞれ違ってよいということらしい。歌詞も、五七五七七のような定型はなく、曲の節回しに合うように歌えばよいという。実に面白い歌の成立ではないか。このゆるい感じが石垣らしい。これは歌だけではなく、祭りなどで演じられる劇が、その年の即興劇になっているという。本土からの寄留民、台湾からの農業移民、沖縄本島や宮古からの開拓移民など、さまざまな人が移り住んだ島だ。それだけ暮らしやすかったのだろう。そして、独特の文化が融合して変化を続ける。暮らしの楽しみ方が半端でない。三線は誰でもが演奏していたものではないようだ。太鼓でリズムを取りながら、歌うというのが昔からのやり方のようだ。「アサドヤユンタ」は小浜島で生まれた歌のようだ。その原型をユーチューブで聞いたが、なかなかいいものだ。

ウサギ屋についにやってきた。具志堅昌美さんという唄者が実にエンターテイナーなのだ。1時間半ぐらいのステージをパワフルに観客をうまく巻き込みながら、よい空気を作り出す。この人の魅力には圧倒されるものがある。本島の民謡酒場とはちがっている。何か石垣らしいものを作り出している。石垣の気風はもう少し剛直なものではないかと思える。短い滞在であるが、本島とも、宮古島とも違う独特の気風がある気がする。リーダーシップがあり、よくわかる自己主張がある。そうかこれは島国日本ではない、国際感覚なのではないだろうか。それにしても誰もが親切である。これがおもてなしの島ということだろう。東京の人は、一度は石垣に来て、おもてなしを学ばなければ、オリンピックで恥をかくことになる。本島のおもてなしは決して卑屈に相手の主張を受け入れるだけではないということ。相手の間違いを間違いとして教えてあげることもおもてなしだ。ウサギ屋の心地よさはそういうものだった。大工さんの強直で、穏やかというのもこれなのだと理解した。

三線を知ることで、沖縄の唄というものを知った。唄を通してだんだん沖縄が分かってきた。昌美ねーねーが唄う歌はどれも一緒に唄えた。エイサーの太鼓踊りも迫力満点で実に爽快だ。気分は最高に盛りがった。もちろん、カチャシーも踊り狂った。連夜行きたい気分だったが、それはさすがに止めておいた。ウサギ屋には日本全国、もちろん中国からも来ていた。いなかったのは東京の人だった。いつも思うのだが、神奈川県人は必ず何人かいる。人口比率からしておかしいと思う。そんなに広い店ではないのだが、あふれんばかりの観光客がはじめて出会ったにもかかわらず一つになる。そして、1時間半でうまく終わる。よく出来上がった一夜のショウーに磨き上げられている。このみがき上げ方がウサギ屋ショウーの魅力なのだろう。大宮にもウサギ屋はあるということだが、果たしてどう盛り上がっているのだろうか。

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