柿渋の床塗り
柿渋の床塗りをした。私の住んでいる家は昭和初期に作られた家である。その古い家を25年ほど前に、大幅な改築を行ったものということだった。私が住み始めて、もう15年経つ。私も何度か改造をしたから、もう原型がどうだったのかわかりにくいほど変わった。今回アトリエの床を柿渋で塗ってみた。アトリエと言っても、廊下というか縁側というようなとこである。半分外という感じが気に入っている。特に冬は日が燦々と降り注いで、気分が良い。写生に行っても、車の中で描くことが多く、外に出て絵を描くより、少し取り込まれている状態が気分が落ち着く。それでも明るい外光でなければ気分よく描けないので、南向きの縁側が絵を描く場所になった。巾一間で長さが5間半である。ここでは描くだけで、描いた絵はギャラリーの方に置く。ギャラリーはほぼ出来た絵を昔描いた基準の絵と並べる場所と、他の人の水彩画と並べる場所と、描きかけの絵を置く場所との、3か所になっている。
床材は無節の檜の幅11センチの無垢板である。越してきた15年前は傷一つない見事に磨き上げられた床だった。家に来る人が褒めてくれる床だったのだ。米ぬかを袋に入れて磨いていたそうだ。ところが私の趣味には合わないものだった。節があった方が良いし。傷だらけで味がある方が落ち着く。汚していいような状態でなければ、絵を描く場所の感じにならない。汚していいと言っても汚いところではまた絵は描きたくない。感じよく古びていてほしいのだ。床は猫のスケート場になっていて、ずいぶん引っ掻いてくれた。すぐ猫は吐く。それが白いシミになる。そういうものが混然一体となって、良い床になってきた所である。以前キヌカで塗ったのだが、今回は柿渋で塗ることにした。先日頂いたコメントに柿渋とベンガラを混ぜて塗ったとあったので、そうしようかとも思ったのだが、まず単独で柿渋を塗った。そのあと2度目にベンガラを混ぜて塗ろうかと思っている。
ついでに家具や柱も塗ってみた。置いてある台は一間ある大きなもので絵を描く台である。この上に少し斜めになる台を置いて、そこで絵を描く台だ。下には画材などが仕舞ってある。絵を描く台なのだが、きれいな桐材で出来ているので、和服などが中に桐箱に入れて仕舞ってある。筆も入れてもあるので、防虫剤が入れてあるので開けると匂いがする。この箪笥もキヌカで一度塗ったのだが、今回は柿渋で塗ってみた。奥の方には、絵を入れてある桐ダンスが、2つあるのだが、これも柿渋で塗った。塗ったというほど変わらないのだが、塗らないよりいいかと思っている。
1リットルを使い切るだけ塗った。時間にして、1時間半の作業だった。柿渋のいいのは、さして掃除もせず、片づけてそのまま塗ることができたところだ。匂いもしないし、手についても何でもない。それは染色の時もそうなのだが、素手でじゃぶじゃぶやっているが、肌に悪いどころかいいような感じすらある。この廊下アトリエには篆刻をするすわり机もある。これは以前から柿渋で塗っている。中学生の叔父の草家人が書いたという購入日がある。大正時代である。楠だと思っていたら、どうも欅だということだ。玄関には楠のベンチもあるのだが、ついでにこれも塗った。これはカヨ子さんのお母さんが代々木上原の近所の家で楠を切ったので貰ったという材である。切ってから、30年は経つことになる。だんだん傷つき美しくなってきた。わざわざ汚すのと違って猫がやってくれた爪痕などなかなかいいものだ。そういう様々が美し見えるように柿渋を塗る。