減反廃止と生産調整

   

政府は減反政策の廃止を決めた。廃止には5年もかかるそうだが、ともかく止めることが大切である。そして、生産調整廃止どころかむしろ生産調整強化の方向に動いている。すべてがTPP妥協に向けての国内対策である。今まで減反奨励補助金で、お米の過剰生産を食い止めようとしてきた。しかし、これが限界に来ている。減反政策を進めても、お米の生産量が減らない。機能しない政策の為に、農家保護と言われてきた。奨励金が稲作の経済合理性を阻害し、ゆがんだ農業を助長することになってしまったのだ。お米を作るということが、経済とは別の原理で動いてゆくゆがみである。しかし、TPPに加盟するということは、お米が世界の主要な農産物である以上、加盟国間関税がいずれなくなることは、眼に見えている。TPP加盟がアメリカ一国の有利と、世界企業の利益の為に進められていると私は考えているが、一まずその議論は置いておき、来年のそして、再来年のお米や田んぼがどうなるかを考えてみる。

減反廃止の代わりに、飼料米のの奨励金が予定されている。これはもし本格的に運用され、届け出などを行政や農協が推進するのであれば、忽ちに広がるであろう。なぜなら、減反補助金より、さらに有利な補助金が付いているからである。これにより確かに、主食米の生産は減る。止めていた田んぼまで、飼料米が作られ、田んぼは維持される可能性がある。この飼料米の生産については、10年前に書いた養鶏の本で主張していたことである。やっとここまで来たという気持ちはある。私のような小さな養鶏農家が2ヘクタールの田んぼをやり、そこで餌を生産しながら養鶏をやれば、生活をしてゆける基盤が出来るということである。一見すべてが良いように見えるが、問題は、補助金の額は、減反の為の政府の支出をしていた金額の2倍から、4倍の支出になるだろうということだ。この支出の増加に、政府が耐えられるかどうか。世間がこのゆがみを批判しないかということだ。TPP妥協の産物として、当面了解が取れるのだろうか。

さらに、政府としては奨励すべき、大規模企業稲作の成立の問題がある。飼料米田んぼがその邪魔になる可能性も高い。それを乗り越えて、日本国内で考えうる限界まで、合理化した稲作が完成したとして、ベトナムで行う米生産の2倍くらいの生産コストになると予測している。その差額は主に労働費である。この差額があったとしても、国内産のお米が売れるかである。企業の善悪の判断は、儲かるかどうかである。北海道で大規模農業をやることと、ベトナムでやることを比較して、2倍くらいなら、国内の安定を選択するのか、ベトナムリスクを承知で、海外生産をするかである。当然、先行して牛丼チェーン店などが、海外生産を選択するだろう。成功した年には、日本国内のコメ価格を圧迫することになる。それでも、企業が国内のコメ生産を続けるメリットを感じるかどうかである。この大規模農業を奨励するために、農地の企業所有を認めることになる。税金の優遇や、雇用労働費の補助など様々な政策を同時に行うことになるだろう。これにも国民の了解が得られるのか。

課題がいくつか予測される。政府の補助金の額は、今の数倍になるに違いない。この支出を政府や、国民全体が認めるのかどうか。こうした新たなTPPに触れないはずの補助を、アメリカが認めるのかどうか。畜産飼料の流通の問題が起こる。飼料米を農協が集荷して、販売するような形が可能なのかどうか。この飼料価格が、輸入飼料と競合しないレベルの価格に成り得るのか。キロ40円ならば利用されるだろうが、こういう価格のものを集荷して、保存して販売するシステムは農協以外にはない。農業は政策が長期的に安定しなければ出来ない。5年程度で、政策が変わるとすれば、新しい農業の構想に期待して、新規就農したことがすべて崩壊してしまう。だから、今までは政府が新しい農業政策を主張しても、農家は乗ってこないのだ。むしろ政府の逆に行けばうまく行くとまで言われてきた。飼料米政策は成功するだろうか。

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