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笹村 出-自給農業の記録-

石垣島の環境を守るために

   



 石垣小学校4年生の田植えをした田んぼ。新川地区である。子供たちはかなり深くもぐっていた。足跡がなくなっている。どうやって足跡を消したのだろう。もしかしたら自然に消える土壌なのか。
 田んぼに立てられた棒には、一人一人の名前が書かれていた。石垣では田植えが終わると、このように水をしばらく抜いてしまう。畦もこの通り、特に塗るようなことはないが、水漏れはほとんど見たことがない。

 わずかな雨の後でも、石垣島の宮良川はこのように濁る。上部の自衛隊基地からの赤土の流出も加わっているのではないだろうか。工事現場の前の道路には流れ出ていた。もちろんサトウキビ畑からの赤土流出はすさまじい物がある。これは耕作方法に問題があるからだ。

 石垣島の環境はまだかろうじて維持されてはいるが、危機的な状況にあると考えた方が良いのだろう。それは地球温暖化や、マイクロプラステック問題に見られるように、地球全体から来ているどうしようもない側面もある。と同時に石垣島の今の暮らしから来ているものもある。

 暮らしの足下から来る環境との折り合いの付け方の問題がある。人間が生活をすると言うことは、環境を破壊すると言うことである。何が悪いと言ったところで、すべてが比較の範囲に入る。ノーベル賞を受賞した北欧の少女の主張のように、すべては大人の責任なのだ。

 しかし、諦め気味ではあるとしても、自分の暮らし方から、やれることはやらなければならない。人間はものを食べなければならない。農業をやらなければ生きて行けない。農業には環境汚染が伴う。農業のなかでは東アジア4千年の永続農業は環境汚染の少ない環境に織り込まれた農業である。

 日本では言えば江戸時代の水田稲作を中心にした暮らし方は自然環境を必要以上に改変しない農業である。環境のためには里山農業が重要である。家畜を飼うとしても、畑作を行うとしても水田稲作とできる限り調和させることが環境維持には重要となる。水を汚さず循環させると言うことが考え方の基本になる。

 水田稲作を維持することが環境を豊かな物にする重要なことになる。ラムサール条約では水田の持つ生物多様性を評価している。自然環境との折り合いの付け方として、水田ほど環境維持に重要な農業は他にはないだろう。自然破壊にならない農業として、自然を守る農業として石垣島では水田稲作を継続しなければならない。

 石垣島で今起きている具体的な問題は赤土の流出である。大雨が降れば、宮良川は赤茶けた濁り水と成って海に流れ出ている。飛行機で石垣に降りるとき海の汚染が不気味なほどよく分かる。原因は様々な土木工事もある。パイナップルやサトウキビ畑の耕作方法にもある。

 沖縄県環境部では環境保全型農業として、赤土の流出をさせない農業を提唱しているが、未だ成果を上げているとは言いがたい物がある。名蔵湾もかなりの沖合までが、赤土の沈殿した海となっている。

 裸地を作ると言うことは赤土の流出に必ず繋がる。裸地の下流域に沈殿池が必要となる。しかし、現状では赤土は畑や土木工事現場から、道路に流れ出て、川に流入している。その結果が宮良川や名蔵湾の赤い汚濁になっている。

 赤土の流出を減らすためには、水田農業を継続することである。水田化が可能な農地はできる限り、水田に戻すことだ。とくに、石垣島の土壌は冬期湛水可能である。土壌特性を生かし、すでに冬季湛水をしている水田も多数存在する。このことを評価しアピールして、付加価値につなげなくてはならない。

 具体的には名蔵の鳥類保護計画には田んぼ面積を少しでも広く確保することが重要になる。耕作放棄地の復田。サトウキビからの転作。販売ルートの模索。市民との共同。観光との連携。

 水田は赤土の流出の防止の役割がある。田んぼの貯水機能を利用し、傾斜地である上部のサトウキビや、パイナップル畑からの赤土流出を、下流域に水田を配置することで防ぐことが可能になる。総合的な水の循環をする永続農業の構成を行う。

 下流域の耕作放棄地はできる限り水田に戻して貰う。そのためには水田稲作が経営的に可能な物になるようにしなければならない。稲作農業は今後ますます経営的には難しくなる。施策を打たなければ、遠からずなくなってしまう農業であると考えなければならない。

 いくつかの方策が考えられる。
  1. 名蔵アンパルの環境保護米として、ブランド化をして、付加価値を付ける。「カンムリワシ米」通いかもしれない、そのための具体的な耕作方法として、冬期湛水は価値付けになる。
     
  2. 地場産品としての泡盛の製造。すでに清福酒造で始まっている、地場産米により泡盛製造は期待できるものになるだろう。現在、泡盛はタイ米が主原料である。これを地場産米に変えることは、これからの観光物産としては必要なことになるだろう。
  3. 地場の食材として活用。石垣島の海を守るためのお米。珊瑚米として山から海への繋がりの要としての稲作をアピールできる。地場産品の食材でそろえることが、これからの観光には一つの価値になって行く。石垣島が地場の有機農産物だけで暮らせる島であることを観光の価値にして行く。島での有機農産物ネットワークの形成。
  4. 石垣島の文化的な歴史と、稲作との関係を掘り起こして行く。沖縄列島全体で田んぼが失われつつある。これは沖縄文化の魅力を衰退させることになる。八重山古典民謡でも田んぼを唄うものが多い。豊年祭の田んぼとの関係は意味深いものである。
  5. 学校田の必要性を考えなくてはならない。ただの田植え体験ではなく、種まきから収穫まで行い。そのお米が来年の種籾になる。この循環する形を子供たちに知ってもらうことが必要であろう。
  6. 石垣島の田んぼの形は古い時代を彷彿とさせる魅力の溢れる水田である。全国から、歴史的農業としての水田は失われようとしている。水田そのものが敢行される時代になっている。田んぼをふくめた景観を維持することは、次の時代に石垣を伝える大きな農業遺産になるに違いない。

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