ソフトバンクの孫さんの日本の危機意識
ソフトバンクの孫社長が日経新聞に日本の危機的状況を語っている。問題意識は私とは裏返しなのだが、危機的状況の認識は同じである。一番の危機は、日本が危機的状況であるという認識が政府にないことである。
孫氏は日本人が競争心を失ったことが、日本の崩壊の原因としている。美しい小さな日本などと言いだしたために、日本は崩壊を始めたと主張している。日本は30年間、技術革新がない。ハングリー精神を失ったためだとしている。拝金主義を蔑む風潮が良くないとしている。
AI革命ににおくれをとる危機意識が強いようだ。「情報革命は脳の働きの拡張です。脳の働きを大きく2つに分けると、知識と知恵というものがあります。今までのインターネット革命は知識の革命だった。ですからあんまり丸暗記しなくても、検索で済むようになりました。これからは知恵の革命になると思います。」このように主張している。
日本は壊れ始めている。ここは孫氏と同感である。関電汚職。郵貯簡保サギ。トリエンナーレ補助金不交付。辺野古米軍基地強行。アジア外交の迷走。人口減少。地方の消滅。忖度政治。音をたてて壊れるというが、崩壊してゆく音が聞こえてくるようだ。この崩壊に私も加わっているという自覚がある。
ここに至っても、自民党政権の支持率は高く、いまだ3人に一人は支持している。理由は寄らば大樹の陰。多くの国民が我が身の危険を予感している。年金100年安心と思う人はいるのだろうか。それでも生きてゆくためには、自民党にすがるしかないということなのだろうか。あるいは自分に得があるのが自民党という選択か。この崩壊に私も加わっているという自覚がある。
こうなると思っていた。しかし、手を打つことはできなかった。資本主義というものの行く先なのかもしれない。団塊の世代は成長期の資本主義の恩恵を受けた。その社会を利用出来たおかげで、今私は絵を描いていることが出来る。だから、この崩壊に私も加わっているという自覚がある。
次の世代の日本人に申し訳のないことだ。たぶん、このさき、安倍とトランプの世界になる。弱肉強食の拝金主義である。孫氏の言うとおり、競争心の強い者が勝つのだろう。日本が勝てば誰かが負ける。この競争を続ければ、到達点が地球の崩壊である。
日本人が捨てたのは競争心ではなく、意欲なのではないか。45年前フランスに行ったときは、パリのボザールにはたくさんの日本人がいた。その後ボザールを訪ねてみたら、ほとんど日本人はいないという事だった。
芸術をしたいというような気持が失われている。自分の人生を極めたいというような、人間として真理を求める意識が乏しくなっているように感じる。孫氏のように、他人との競争に勝ちたいという人はまだ結構いる。しかし、絵を描くことに自分の生涯をかけてみようなどという人は少ない。我々の世代が特殊だったのかもしれない。
そんなことを嘆いているわけではない。孫氏のような競争に勝ち抜いた企業家が、日本は崩壊を始めていると主張している点だ。そして、日本の政治家には期待が出来ない。むしろ、アジア諸国の人たちと仕事をした方が、理解が早いとしている。
アベ政権は日本の危機を全く認識できない。だから、憲法改定をして、明治日本に回帰しようという、時代錯誤に陥っている。今開かれている国会冒頭で、安倍氏は日本の国の在り方を憲法審査会で話し合おうと主張していた。
口先は実に正しい。しかし、その本音は日本の行く先は明治日本と決め込んでいる。そういう頑なな人と日本の未来を語り合えるだろうか。日本会議の人たちと、日本の未来は議論不能である。もし憲法審査会で議論をするならが、憲法裁判所を作るという事が前提だろう。憲法を拡大解釈ばかりする人の憲法改定では、議論も不能である。
どうにかしなければならない訳だが、どうにもならない。この崩壊には耐えがたいものがある。平等な社会。自由のある社会。正義の通る社会。誰しもが希望の持てる社会。こうした、望みは絶たれつつある。この崩壊に私も加わっているという自覚がある。
孫氏が心配するように日本は置いてきぼりになるだろう。ソフトバンクは世界で競争を続けるだろう。置いてきぼりになる原因は、ハングリー精神を失ったからではない。政府が無能だからだ。原子力にしがみ付いて、動きが取れない姿にそれが現れている。
アベ政権は新しいことに取り組む精神を失っている。既得権政治である。明治時代を良しとするのだから、当然かもしれない。新しいタイプの企業を尊敬しない日本政府に、孫氏は期待をしないことにしたのだろう。
孫氏はいまだかつてなかったAI革命に新しい日本に可能性を見ている。私はかつてあった日本という自給世界に可能性を見ている。それは競争の行く先は、地球崩壊だと考えるからだ。競争が激化すれば、戦争に至ると考えるからだ。
トランプ氏の態度を見ていると、勝者というものがどういうものかよくわかる。弱者は押しつぶされて仕方がないものだ。競争に敗れた理由は努力不足や、能力不足である。潰されるのは自己責任だと考えている。正義というものが存在しない。
孫氏は企業家だから、日本の枠を超えて、政界で競争をすることで日本政府という、どうしようもない枠を逃れている。競争を良しとしないものは、政府から距離を置いて、自給生活を通して自分の生き方を固めるほか道がない。
このまま日本が崩壊するのは忍びない。それは日本を超えてゆく孫さんの意識もそうであろう。かつての日本の中に戻ろうという私の意識もその点では違わない。日本には江戸時代という鎖国をして、自給的世界を作り上げた日本国に、世界の希望があると考えている。