スリットドラムの天板について6

   

 

スリットドラム13号。4本舌型のほぼ完成形と思われる天板。パドゥク25ミリ厚。天板は今まででは一番厚いものだが、30ミリでも可能という事が見えてきた。

天板の材料としては、今のところはパドックが良いと考えている。パドック(パドウク、パドーク:Padauk)赤道アフリカの樹木で、マメ科。直径は1メートル以上のものもあるらしい。学名 Pterocarpus soyauxii Taub.この樹木が木琴の材料として優れている。木琴では普通に使われている。音は好みである。どんな樹木であれ敲けば音が出る。拍子木の音もあれば、木魚の音もある。そして楽器としては、木琴が代表的なものだろう。タング(トング)ドラム。舌のような形のベロの板を敲いて音おだす。スリットドラム。タムタムという名前をアフリカ音楽の話で聞いたことがある。木鼓(もっこ)という呼び方が気に入った。いずれにしても、木を敲く音に魂に届くような響きを感じる。一つには木魚で朝眼を覚ますという子供時代に刷り込まれたものではないかと思う。本堂の方から、木魚の音だけが伝わってくる。そのうち、鐘を敲く音が鳴ると、おじいさんのお勤めのお経が終わるので、起きなければならない。

貧乏寺だったので、当時は梵鐘はなかった。鳴り物としては、あの古い木魚が今もある。木魚もささやかな割れ木魚なのだが、子供の私にはこれほど立派な木魚は日本にも少ないと思い込んでいた。音のことであった。木魚もパドックで作れば良い音がすることだろうと思う。いろいろの樹木で木鼓をつくった。ケヤキ、楠、栓、黒檀、紫檀、花梨、ローズウッド、そして今はパドックの音に惹かれる。次はローズウッド。理由はどちらの天板も音が多様になるという事だ。木鼓の天板として必要なものは、手のタッチに反応してくれる、様々な表情のある音である。楽器なのだから、演奏者の感覚を直接表現してくれる音の幅が必要だ。透明感のある音から、ずしんと重い響き、軽やかな音。迫力のある音。多様に答えてくれることが魅力である。ローズウッドになると良すぎて、木鼓という感じから離れるような気がする。

他の素材にもそれぞれに音の魅力はあるのだが、出てくる音が一定のものになりやすい。つまり、ケヤキを敲いている。くすの木を敲いているというような、樹種が確認できるほど、一通りの音になりやすい。それは黒檀もそうである。その点でパドゥクは不思議な材である。音に幅があるように感じる。作り方でどの音を選ぶかが出来るようなのだ。心材は赤く、偏在は白い。この対比を上手く取り入れて天板を作ると、絵としてもなかなかのものになる。油をつけて磨くと、一気に黒くなるが、これはこれでいい深みが出る。いずれにしてもよく磨いてやると輝いてくる。磨きで油をつけると2,3日音が響かなくなる。温めても音は出なくなる。ともかく乾燥が重要である。いろいろあって制作したても音が出ない。これはダメだったかと何度も思ったが、1週間ほど敲いていると日々良い音になって来る。つまり多様性が出てくる。軽い指のタッチで触れただけで音が出始める。音の響きを樹木が受け止めて、反応が良くなるという感じである。

天板の舌の形は厚みが20ミリ厚であれば、根元の幅が30ミリで、長さが500ミリくらいが最大である。短い方では100ミリくらい。止の音としては横から出す50ミリ。だから、厚み15ミリの天板なら、400ミリくらいが限度か。板幅は25ミリくらいか。このあたりの加減で音の出具合が違う。舌は先をただ丸くするのと、スプーンのように先に頭をつけるものとを組み合わせるが、頭の形は叩きやすい形が一番。頭を敲くこともあれば、軸の部分を敲くこともあるが、敲く場所で音が変わる。いずれ軸の幅が20ミリ以下では敲き分けることが難しくなる。舌の配置は手前のどこかに止の音を置くと良い。又音の出てくる隙間穴はさまざまであるが、隙間穴を大きくする方が響きが出やすいこともあると思っていたが、そうでもないことも分かった。後から穴は広げられるので、まずは小さめの隙間穴で作って始めた方が良い。ビビリオンが出やすいものだが、それはそれで魅力になる場合もある。ビビリオンはどこかに触れている場合と、ひびがある場合がある。

次の試みとしては、天板も底板もスリットを入れたもの。上下で違うタイプのスリットものを作ってみている。さらに天板が30ミリ越えのものがどんな音になるかも試作中。

 - 楽器