トキのヒナ誕生

   

放鳥されたトキがヒナを3羽産んだ。無事育つように祈るばかりである。鳥好きとして、最近の嬉しいニュースが相次いだ。一つは、「絶滅したと思われていたミズナギドリの希少種を小笠原諸島で再発見」があった。アホウ鳥の再発見を思い出す。アホードリついては当時の記録が、面白い記事山階鳥類研究所の案内に出ている。戦後間もなくのことである。気象庁の観測員が捕まえて檻に入れたというところがすごい。ミズナギドリは世界各国で起きている再発見同様、鳥への関心が変わってきているからだろう。標本だけの鳥が生きていたのだから、すごい。小笠原の世界自然遺産記念となる。そして、トキである。多くの佐渡の農家が苦労をしてきたかいがあるというものだ。早く自然に戻り、檻で飼うような状態が終わることを期待する。自然状態のトキが産卵し、孵化したということは、トキが暮らしてゆける水田環境が、戻ってきたということである。

田んぼがあり、カエルやドジョウやタニシや沢ガニが沢山いるということだ。それは佐渡には自然状態の田んぼがあるということだ。コンクリート化したような田んぼでないという事だ。この事は、「トキと共生する島」佐渡の農業農村整備 -“餌場づくり”から“トキと暮らす水田”へ -宮里 圭一 に詳しく記載されている。トキが野生に戻るためには、トキが暮らせなくなった田んぼを変えなければならないという、大事業がある。コウノトリの戻った田んぼでも、そうであった。コウノトリが米作りの邪魔をする鳥と、近代農業は誤解していた。これを詳しく調査して行ったら、コウノトリは苗を踏み荒らしていなかった。そして、コウノトリ米として、付加価値が付いて、お米が売れるようになる。トキもそうなのだが、トキが居るということは、素晴らしい環境のお米だということになる。トキのお米が付加価値を付けて販売されるということが農業との関係で重要な事だ。今のところ、販売は順調らしい。

このお米の認証制度の要件は、
1.佐渡市で栽培された米であること(一島一市)
2.栽培者がエコファーマーの認定を受けていること
3.栽培期間中化学農薬、化学肥料の使用を佐渡地域慣行基準比5割以下に削減したもの(新潟県特別栽培農産物認証制度に該当)
4.「生き物を育む農法」により栽培されたもの
ここで、「生き物を育む農法」とは、 ◦冬期湛水◦江(水田内)の設置◦魚道の設置◦ビオトープの設置等また、販売金額の一部(1kgにつき1円)は朱鷺募金へ寄付されている。

トキは江戸時代には日本中に居た鳥である。つまり、江戸時代、日本全体の田んぼの広がりがわかる。コウノトリ、タンチョウヅル。そしてトキ。大型の水辺の鳥が日本中にいたということは、日本中に大型の野鳥を排除しない田んぼが存在したということになる。そして冬の間も、それだけの鳥が生き続ける水辺があったということになる。田んぼは、これらの鳥の餌を生産していたということになる。農村が飢餓ばかりが続いていたなら、こんな状態にはならない。人間のすぐそばに、こうした鳥が遊んでいた記録がある。江戸時代が弱者を虐げる、悲惨な時代というイメージは違っている事を暗示している。農村には今とは異なる、豊かな生産力があった。里地里山の中で日本人は、緩やかに、ある意味豊かに暮らしていた。自給自足的な暮らしは、案外にのんびりしていたのである。トキが野生化できる環境は、人間の暮らしにとってもすばらしいということを大切にしたい。

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