農地の不在地主
農業会議所が06年12月末現在の農地の利用実態を全国の農業委員会1844団体に尋ね、1397団体が回答した。不在地主農地の面積を答えたのは730団体で計20万624ヘクタール。1団体平均274.8ヘクタールだった。残り667団体は面積を把握していないが、平均から推計すれば全国で約50万ヘクタールに達し、全国の農地約400万ヘクタールの約8分の1が不在地主農地の可能性がある。
私が借りている土地にも、東京の地主さんのものがある。いわゆる不在地主と言う事になるのだろう。1反づつ、ご姉妹から借りている。この土地は驚くことに、家の建てられない宅地である。この事情は農地ならではの、不思議な結果。推測なのだが、その昔、東京の財産家の方が、海の一望できる素晴しい丘の上に、農地を購入した。その昔だから、そう言う事もできたのだろう。案外に駅からも近く、引退後の住まいと考えたとしても不思議はない。たぶん昭和40年代になって家を建てようと、農地を宅地に変更したようだ。そんなことも可能だったようだ。そして、いよいよ建築されようとして、亡くなられてしまう。そしてそのお嬢さんのお二人が、土地を相続する。
その土地は、当然誰も耕作するものでもなく、長い年月が過ぎてゆく。その間、全くの関係ない人が、黙って隅だけ家庭菜園を始める。他は荒れ放題のままになる。地主さんのお二人は見に来るわけでもなく。そのまま、過ぎていた。それらの事情があって、私に借りてもらえないかと言う話があるところから来る。地主さんと相談してみると、きちっと管理してくれるなら、全部をすっきりとさせてくれるなら、と言う事でお借りできることになる。既得権のように作っていた人に納得してもらい。これは大変だったが。今は畑をやっている。このお二人のように、農業者ではないし、農業など考えても居ない人が、相続で農地を所有してしまい。しかも、その先のさらに農業に縁のない人の所有になり始めている。実は我が家も、那須に土地があって不在地主である。2箇所土地がある。利用したい人は居ないものだろうか。やはり相続でそう言う事になった。きっと荒れて迷惑になっているだろう。
農地の8分の1が不在地主。これは農政の方針の混乱が原因である。既成農業者以外の農業参入を禁止したこと。農地の転用基準のなし崩し的曖昧さ。大きな方針がない為に、その場その場の農業者の要求を受け入れた、政府の態度の結果である。農地に関する法の縛りが、他の法との整合性がない。一方産業としても、全く他産業とは、異なる論理で作り出されている農業。こうした、成り行き任せの結果が、ついにここまで来たと言う事になる。農地の価格が同じ条件の宅地に較べて、20分の1。これでは、法の網をすり抜けて、宅地化しようという人が、後を絶たないのは当然の事だ。最も成功した農業者は実質不動産業者である。農地は農産物を作る生産の場のはずだ。この原則を忘れている。このことを建前にした、日本らしい失政。
ここにきて、株式会社の農地所有が新たな問題になりそうだ。企業が農業に参入すること自体に問題はない。農地は企業が所有し資産となる。企業全体の収支の中で、損益が計算される。農地は新たな、価格を持つことになる。宅地が利用価値から離れて、投資的資産となり、乱高下した。同じに、農地が利用価値から、株式会社の資産的評価になる。株主はどう見るか。これは、小さな農地で暮してゆく、小さな農家にとって、困ることにならないか。特に、農地を借りて、新規就農を計画する人には、困ることにならないか。新規就農はとても困難なことである。増えてもらわなければ成らない所だが。足柄平野で企業的農業が成立するとは、私に思えない。現実に少しも広がる兆候はない。企業が所有すれば、法律の網の目がさらに複雑化して、もうほぐせない様な状況になりそうだ。農地の国家所有。こう言う事はできないのだろうか。