WTOの決裂
WTOの交渉の決裂は、途上国向けの特別緊急輸入制限(セーフガード)を巡る米国とインドの対立が引き金となったそうだ。農産品の輸入増に対抗する特別セーフガード(緊急輸入制限措置)の条件緩和を求めたインドが米国と激しく対立し、歩み寄れなかった。アチコチの農業団体が、歓迎と言うか、安堵の意見を出している。この間報道発表以外わかるすべもないのだが、日本が主体的に動いたと言う事は無かった。対立の内容もいまいち不鮮明。セーフガードというのは、農産物の特性からきている。気候変動や特殊事情で、大きく生産が変動する事があるので必要な仕組みだ。WTOに対する農水省の考え方は実は、相当に本質的だし、しっかりしたものがある。世界をリードできるだけの見識のある考えを持っている。既に8年も前に出来たものだ。ところが、ここでの農水省の考え方が、日本政府の主張となってきたのかも怪しい。
つまり、通産省の考えは又違う。国内でも意見の統一も出来ないまま、どうやって国際条約を交渉できるのか。全くの疑問だ。インドはアメリカの提案したWTOの条文を徹底研究したそうだ。アメリカは訴訟社会の経験からで、条約文を実に巧みに誘導しているらしい。WTO提訴で日本の企業が思わぬ形で敗訴した。こういう事件が頻発したことがあった。つまり、日本企業も政府も、WTOの内容とその条文の罠を理解していなかったらしい。それは複雑膨大な条約本文とわざわざしてあるためだ。インド人はその哲学的資質から、実に論理的で、アメリカの罠を見破る。そのために当初から、その不平等にいたる構造を指摘し、インドは例外事項を設定して防御した。例えば、フェアートレードはWTO違反だそうだ。提訴するほどの規模ではないから、大目に見られているだけ。
日本政府はインドのお陰で猶予時間をもらった。この間きちっと、国内で議論を詰める必要がある。いつものようにカーテンの陰に隠れて、目立たないようにしているだけでは、日本という国が甘く見られるばかりだ。まず、通産省と農水省の主張の矛盾を整理する必要がある。各大臣は業界を背景にした、利権代表ではない。農水省の主張の骨格は 農業は、各国の社会の基盤となり、社会にとって様々な有益な機能を提供するものであり、各国にとって自然的条件、歴史的背景等が異なる中で、多様性と共存が確保され続けなければならない。このためには、生産条件の相違を克服することの必要性を互いに認め合うことこそ重要である。 ①農業の多面的機能への配慮 ②各国の社会の基盤となる食料安全保障の確保 ③農産物輸出国と輸入国に適用されるルールの不均衡の是正 ④開発途上国への配慮 ⑤消費者・市民社会の関心への配慮 。
世界的な農政上の課題としての農業の多面的機能、食料安全保障の追求。21世紀は、様々な国や地域における多様な農業が共存できる時代であるべきである。そのためには、各国が自然的条件や歴史的背景の違いを踏まえた多様な農業の存在を認め合い、その持続的な生産活動を通じて農業の多面的機能が十分に発揮できるようにしていくとともに、人類の生存にとって不可欠である食料の安定供給を確保していくことが基本となる。そのため、これらの課題を世界的な農政上の課題として認識した上で交渉を行っていくことが必要である。 これは私の主張でなく、8年前に確立したりっぱな農水省の主張だ。問題はこうした事を若林大臣が主張しているように見えない点だ。6%か8%がどうだと言う前に。日本の本質的な主張はどこかに反映しているのかを、明らかにしてもらいたい。