米下院議長ペロン氏の台湾訪問

   



 アメリカの下院議長のペロン氏が台湾を訪問した。下院議長の訪問は25年ぶりのことだそうだ。1997年、香港の主権が中国に移管される三ヶ月前、台湾を訪問すると共に、「中国が武力で台湾を侵犯する場合、アメリカは台湾の防衛を助ける」という発言を行い、当時のアメリカ、中国、台湾関係を明確にした。

 前回の時の中国はアメリカが台湾海峡の戦争に介入すると明言した際、中国は江沢民氏が指導者の時代、経済成長めざましい時代。ギングリッチ下院議長に対し中国政府は「中国は台湾に侵攻する用意はない。そのため、アメリカは台湾の防衛を助ける必要もない」と伝え、両者の緊張を和らげようとした。今回とは大きく対応が異なる。 

 当時の台湾の総統は先日亡くなられた台湾民主主義の父と言ってもいい李登輝総統。一行の表敬訪問を受け、中華民国は主権が独立した民主国家だ。「我々には独立を宣言する必要はない」、「我々は両岸が関係の安定を維持し、対話を再開し、平和的な方法で両岸問題を処理するよう希望している。これこそ我々の立場だ」と述べたという。 

 この時の対応と競べると、習近平政権の大国意識は目立つ物がある。ペロン氏が台湾を訪問したことの意味は、大きく変わっている。25年前の中国は香港返還をつつがなく成功させることが重要で、台湾問題で事を起すことは得策ではないと考えていたのだろう。中国の情勢判断は正確である。

 25年が経過しその香港の民主主義は終わり、中国の独裁政治の中に組み込まれた。中国が経済成長を続け、実力を高め、アメリカと肩を並べる超大国になったと言うことなのだろう。私は香港返還の前後に中国に行った。そして、中国人の潜在能力と、国家資本主義の効率の良さに目を見張った。

 間違いなく中国は素晴らしい経済成長をすると確信した。だから、アメリカと距離をとり、中国を中心とした、アジアの平和連携が必要と考えて主張していた。ところが、日本の政治家は中国の独裁はどこかで破綻するとばかり主張していて、中国の実力を見誤ってきた。

 当時、中国人のすごさは謙虚に学ぶものを学ぼうという姿勢だった。中国人はプライドが高いから、日本人が養鶏の指導に来ても、中国の方がはるかに技術レベルが高いと考えていたようだ。しかし、食品残渣を利用した発酵養鶏の技術を詳しく説明すると、早速日本の私のちいさな養鶏場の見学に来るくらい、熱心で本気だった。

 こんなことは日本の行政には皆無で、日本の硬直化した新しい技術への閉じた姿勢と、中国の柔軟で、次の技術を探そうという意欲的な意識は大きく違っていた。だから、中国に来て指導して欲しいと言われたときに、心が動いた。日本人の戦争責任を技術を伝えるとい形で果たす必要があるのではないかと迷った。

 しかし、当時農の会を始めた頃で、とても中国に行く余裕がなかった。しかしその後も中国に2回行き、できる限りの事を伝えたつもりだ。指導に行った鎮江市からは、市長さんをふくめた視察団まで作り見学に来た。その時には出来たばかりの朝どれファーミーやjoyファームの事、そして農の会の宅配システムを見てもらった。

 戻るやいなやすぐ農民市場や有機農産物の通販組織を作ったと連絡があった。その対応力の早さは驚異的な物だった。いよいよ日本は置いて行かれるに違いないと思った。日本政府が過去にすがりついて、新しいことを試みない姿勢にがっかりするばかりだった。

 中国は驚異的な経済成長を続けている。日本の保守的な政治家の中国がこけるという予測はまったく外れたのだ。国家資本主義の方が、上手くゆくときは一気に成長をする。世界から大きく遅れた中国、その上に個人主義が強い中国が、国家資本主義を選択したのは、経済成長という意味では正しい選択だったのだろう。

 昨日より今日の方が生活が楽になる。今日よりも明日の方がたぶん生活が良くなるのだろう。このように感じていれば、習近平が独裁者として、民主主義をないがしろにして、個人の権利を無視して、強権を振るうことを国民は受け入れることになる。

 個人の権利をないがしろにして居ることが、自分の暮らしの向上に繋がっているという意識があるのだ。だから香港の民主主義が否定されても、それが自分の暮らしの向上に役立つのだろうという意識が、大半の中国人にはある。だから、習近平の独裁政治は、プーチンの独裁以上に国民に支持されているのだろう。

 その状況下での台湾へのペロン氏の訪問は正しい政治判断だと思う。中国は台湾軍事侵攻を実行する可能性はかなりある。それは中国の経済成長が行き詰まってきたときだ。経済の好調が続いている間は台湾侵攻はしないと思う。しかし、経済はどこかで頭打ちになる。

 台湾侵攻をあると考えれば、アメリカはこの時点で実際の行動をとり、意志を明確にすることの方が賢明である。もしそれをしなければ、中国はアメリカの足下を見ることに成る。アメリカが出てこないならば、と言う判断になる。

 中国に置いて明日は暮らしがもっと良くなると言うことが実現している間は、台湾侵攻はないと見て良いだろう。中国は今回台湾周辺で大きな軍事演習を行った。いつでも台湾侵攻は出来るという所を見せているつもりなのだろう。そうして、台湾が自ら、中国と妥協してくることが、中国の狙いである。

 台湾の中には親中国勢力が存在する。台湾が自ら変化するのを待つのが、今の中国の戦略だろうと思う。そ言うした台湾工作を進めているはずだ。今後もあれこれ軍事的圧力を強めるだろう。これはむしろ、当面実際の侵攻はしないと言うこととも取れる。

 現状では中国はアメリカの代理となる台湾と直接戦争に入るほど、愚かだとは思えない。このまま自らの経済成長を待つ方が望ましいと考えているだろう。アメリカの経済を追い抜いてからの話と考えておいた方が良い。2030ぐらいだろうか。

 日本も、台湾も、世界情勢を見誤ってはならない。中国の国家資本主義が行き詰まり、民主化される可能性だって無いとは言えない。アメリカがトランプのような一国主義政策になる可能性も高い。日、台、韓が連携して、中国との友好関係を高めると言うことは考え得る。柔軟に平和外交を進めるべきだ。

 日本人の中には明治以来のアジアの盟主という妄想が残っている。そのつまらない妄想があると、日本の道を誤るだろう。中国を中心にした、アジアの連携を考える必要が必ず出てくる。フィリピン、ベトナムとより広い国家間でアジア版EUが作られることがいちばん望ましいのだろう。

 実際の台湾有事は想定されるだろうが、まだかなり年限がある。その間に世界情勢も変わるだろう。経済の情勢も変わる。その間に日本は平和外交の努力をすることが、重要になる。対立を煽るのではなく、どのように日本が中国に入り込むかである。


  

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