アサド独裁政権の崩壊

   



 アサド大統領はシリアを29年間独裁的に支配した父ハフェズ・アサド前大統領の死去を受け、2000年に政権を握った 。当初は父親よりは民主的とみられたが、2011年、政権に対する平和的な抗議行動を暴力的に弾圧し、内戦を引き起こした。

 その後残虐な支配が世界から問題とされた。アサド政権はその残虐性で記憶されることになった。シリアでは50万人以上が殺されている。約600万人が難民となった。ロシアがシリアを支援し、軍事基地をもち、ヨーロッパ、中東への拠点にした。

 これはまるでアメリカ軍の日本の基地と同じことだ。アメリカ軍は日本の防衛のために、日本に駐留しているのではない。日本を監視し、属国化することと、世界戦略の為の前線基地を確保していると言うことなのだ。いざとなれば、アサド政権と同じで見捨てるだけと考えるべきだ。

 ロシアがウクライナ軍事侵攻を行い1000日間の長い戦闘が続いている。終わりのない戦闘の状況に国民の不満も高まる。ロシア軍は徴兵を強化しているが、それも限界に達した。北朝鮮軍の支援まで仰ぐことにまでなった。ウクライナ軍の死亡者よりも、ロシア軍の死亡者の方が多いとされている。

 とてもシリアを支援し反政府勢力ISやタリバンなどからアサド政権を守るどころではなくなってきたのだろう。ロシアがアサド政権を支援してきたのは、軍事基地の提供の見返りであった。しかし、シリアの新しい政権はテロ組織の集合体だ。何時ロシアの敵になるかは見えない。

 ロシアはシリアから軍事基地を撤退せざる得ないかも知れない。このシリアの不安定化はロシアの世界戦略が変更せざる得ないと言うことかもしれない。ロシアはウクライナのナトウ加盟以上の打撃を受けることになる。ロシア国内にはイスラム過激派が存在し、シリア新政権と連携を取るだろう。

 イスラエルがレバノンのテロ組織ヒズボラを攻撃するとして、空爆を始めた。ヒズボラ勢力はほぼ崩壊し、これがアサド政権には打撃になった。イスラエルと、シーア派ヒズボラとの13カ月にわたる戦闘を終結させる停戦が合意されたと発表した。このことが、アサド政権を支持する中東やロシアの力関係に空白を生じさせた。

 こうしたロシアやイランやヒズボラの状況の変化の空隙に、シリアで対立を続けてきた反体制勢力が空白を埋めるように一気に攻勢に転じて、アサド政権を打倒してしまった。支援してきたイランもイスラエルとの戦闘を続けていて、アサド政権の支援に油断、あるいは限界が生じたと言うこともあったのだろう。

 アサド政権の長い恐怖政治の基、軍の士気も低下していたと言うことが考えられる。反政府勢力はこの機会を政権打倒の到来と考え、念密な計画の上に一気に攻勢に転じた。政府軍は押し返すことができない状況に追いやられていたということになる。独裁政権の崩壊はいつも突然起こる。

 力で押え込む独裁政権は、国内に反対勢力がヒタヒタと増加して行く。何かがきっかけとなり、反政府活動が爆発するか分らない。ロシアのプーチンだって、北朝鮮金独裁も、中国の習近平政権だって、何がきっかけで崩壊するか分らない不安定の中に居る。

 反政府勢力側は、いくつか主要な軍の拠点を計画的に攻撃したが、シリア政府軍はほとんどが逃げ出してしまい、反撃するだけの準備さえもなかったと報道されている。本格的な戦闘に入ることすらできないぐらい士気が低下していて、装備などの面でも不足があったと見られる。 


 しかし、アサド一族は前から資産をロシアに移していたと言われている。アサドがロシアに逃亡したとしても、シリア国内には対立するテロ組織と言われている反政府勢力が複雑に存在し、これからのシリア統治の形はまだ全く不明である。

 イスラエルはレバンノンのヒズボラ支援のシリア国内の拠点の攻撃もしてきた。それに対して、イランもシリアも明確な反撃をできないでいた。イスラエルの武力攻撃が、中東全体の勢力図を変えている。これは解決ではなく、イスラム勢力のイスラエルに対する怨念を深めていることになる。

 一方でロシアは、シリアの地中海沿岸地域にロシア軍の海軍と空軍の基地があって、これをロシア政府が手放す事は、地中海やアフリカの軍事活動に大きな影響が考えられる。しいてはウクライナ戦線にも影響することで、到底ロシアとしては抵抗をするはずだ。

 シリアの新しい支配者も曖昧ではあるが、ロシアと対立を、今のところ避けているようだ。シリア国内にあるロシアの権益、特に地中海側にある海軍と空軍の基地が何らかの形で攻撃を受ける、また、撤退を余儀なくされるようなロシアにとって不当な環境ができてしまった場合には、極めて大規模な形で新たなロシアの攻撃が始まる可能性がある。

 ある意味、ロシアがウクライナで停戦する気持ちに変る可能性もでてきた。ウクライナも不利な条件でもともかく停戦をして、第3国に調停をして貰うことだ。国土を譲るとしても、ウクライナという国家が成長して行けば、それでいいことのはずだ。

 現在シリアを解放した組織は「シリア解放機構」だとされている。「シリア解放機構」のジャウラニ指導者は 、アルカイダ系の過激派組織「ヌスラ戦線」国際テロ組織に指定され、アメリカから懸賞金が付けられている人だ。過激派組織が政権を握ったことになれば、これもあたらしい中東の火種にも成りかねない。悪いやつともっと悪いやつとは較べようもない。

 もしシリア政府を国際社会が受け入れると言うことになれば、アルカイダやタリバンに対する国際社会のテロ組織制裁の枠組みが崩壊するということになる。現在のアフガニスタンの状況と似ている。アフガニスタンは現状では一定の平和はあるが、女性の人権など全く認められない人権侵害の状況である。

 中村哲先生をわずかに支援を続けてきた。現状でも「ペシャワールの会」にわずかな支援を続けている。しかし支援しながら最近疑問も感じてきている。タリバン政権下のアフガニスタンの人々の生活を支援することはどういうことになるのだろうか。テロ組織を支持することにならないのだろうか。

 中村先生を殺した可能性の高いテロ組織の政府をどう考えれば良いのかなどと煮え切らない気持ちがある。そもそもアラブの春と言われた、民主化運動による、独裁政権からの解放運動が、国際テロ組織と言われてきたものが政権を握るという不幸な結果になっている。

 現状のアサド政権からのシリア解放が、新たなテロ組織によるシリア支配の可能性も高いことになる。中東の情勢は実に複雑怪奇なことだ。ある意味トランプのように距離を置くのが政界なのかも知れない。支配も解放も、結局は本当の民主革命とはほど遠い結果をもたらすことになる。

 

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