ワタミの農業観光施設の10年後に注目
ワタミは10月7日、都内で事業戦略の発表会を開いた。今月、会長兼CEO(最高経営責任者)に再就任した渡辺美樹氏は2028年度に連結売上高を18年度の2倍の2千億円に引き上げる目標を掲げた。
農業観光施設や自社の有機農業ブランドなどで新事業を立ち上げるとともに、フランチャイズチェーン(FC)展開の強化や海外事業推進による規模の成長を目指す方針という事である。
新事業は既存の農業事業をベースに6次化を進める。21年には岩手県陸前高田市に農業観光施設「ワタミオーガニックランド」を開業。東日本大震災の津波の被害にあったエリアで約23ヘクタールの土地を使い、農業体験に加え飲食店や農産品の加工販売などを展開する。来場者数は年35万人を見込むという。
自社で生産する有機農産品を「ワタミオーガニック」ブランドで販売も予定している。今後の経営目標として29年3月期に売上高2千億円(19年3月期比2.1倍)、営業利益100億円(同9.4倍)を掲げた。
以前から渡辺氏は良い意味でも、悪い意味でも気になっていた人だ。ブラック企業だからという事ではない。オーガニック養鶏を目指したからだ。その実態は直接調べたことがある。北海道にあった農場である。その時このままでは無理だと判断した。働いておられる方は熱心で正直な人で好感が持てた。さいわい私の自然養鶏の本も読んでおられた。
政府が企業の農業参入を補助金で推進していたので、ワタミは補助金を貰い終われば、養鶏も続かないだろう、と私には見えた。予想通りの展開でその後事業が拡大したとは聞かなくなった。そのワタミがまた、農業でしかもオーガニックでブランドを作り、展開しようというのだ。養鶏は含まれているのだろうか。
岩手の越前高田である。渡辺氏は確かに発想力は凄いものがあると思う。これで越前高田が活性化するのであれば素晴らしい事業だ。震災復興事業の補助金目当てというようなことでないと思う。着眼点は正しいのでは無いだろうか。こうした実業で新しいことを起こそうなどという人は、今の世の中では少ないと思う。
この事業がどのような展開をするのか、注目してゆきたいと思う。渡辺氏自身が寝る間も惜しんで働く。その考え方は当たり前のことで、悪いことではない。頑張る新規農業者は365日休みなく働く。私もそうであった。好きでやることだから当たり前であろう。
しかし、社員が寝る間を惜しんで働く前提での事業であれば、それは問題だろう。有機農業はなかなか難しい。特に有機養鶏をやるのであれば、寝る間も惜しんでやらなければ、その技術を習得できないはずだ。私の所で研修したものでも、その後有機養鶏でうまく行ったものはいない。
私の経験では有機農業は利害を先に考える人には、続けられるものではない。すぐ金儲けの方向に変わる。変わっても消費者には分からないからだ。口先だけのインチキの平飼い養鶏になってしまうのが一般的ある。これは大規模養鶏よりも悪い卵だと私は思っている。
有機養鶏には3つの原則がある。1,2種類の嫌気性と好気性の発酵飼料。2,放し飼い。3,雛からの飼育。拝金主義で養鶏をやる人にはこの簡単な3つが実現できない。
自分の養鶏場をやる感覚で雇用した人に働いてもらえば、ブラックという事になってしまう。ひたすら働いて、道を切り開くという考え方を、自分の企業で働く人にも持ってもらいたいというところまでは正しいと思う。問題はすべての働く人が自営業であればその通りである。
またその養鶏の道は実に面白い。やりがいもある。楽しくて寝る間も惜しくなる。しかし、雇用されてやる人間にとってもそうであるかが、気になる所なのだ。渡辺氏がその所の工夫が出来るのかどうかにかかっているのだろう。
自営業者は、農業者も同じであるが、最低賃金もなければ、労働時間の制約もない。すべては自分の問題であり、自分の価値観で生きている。だから私のような人間でもやれた。
世田谷学園で働いていたことがある。美術クラブの顧問もやっていて生徒が帰り終わるまでは学校にいた。勤務の日は朝8時15分から夜7時まで学校にいたのだろう。ブラックという事になるのだろうか。そんなことは少しも考えなかったが。おもしろいからそうしていたのだが、そういう事が許されなくなっているのだろうか。
ワタミ農場では作物や家畜の都合で働くのではないだろうか。それが農業者としては当たり前のことだ。だから面白いのだと思う。切りなく家畜とかかわらないで、畜産の何がわかるかと言いたい。鶏の観察に終わりは無い。
動物を飼育するという事ならすべて同じだろう。トキ保護センターの人が、勤務時間だけ働いていたとは思わない。そうでなければトキの復活はないはずである。ある畜産試験場で天然記念物の日本鶏の飼育についてお聞きしたことがある。とても趣味の人の飼育にはかなわないというのだ。寝どこまで連れてゆき世話をしているようなことは、給与をもらって働いている人にお願いすることは出来ないといわれた。
同じことを石垣島でも聞いた。国の肉牛農場が昔あったのだそうだ。ここで優良の系統の子牛を清算して、農家に提供しようとしたらしい。うまく行かなかったので、今はない。本当の畜産は給与をもらう人ではできないよと言われていた。
養鶏を始めてからは、寝ても覚めてもニワトリの飼育法であった。車で移動中は常に、ニワトリの餌になるものを探していた。田んぼに人がいれば、くず米はないかと聞き歩いていた。
たぶんこの点で渡辺氏の考え方は私とは、大きくは違わないのだと思う。問題は企業として取り組める仕組みが作れるかである。私の想像では無理だと思っている。しかし、渡辺氏は突破する仕組みを考えるかもしれないと、今後に期待する。管理職ならば、エクゼクティブ何やらで好きなだけ働いて、歩合給になるというような仕組みなのか。
私はある焼き鳥屋企業から、伊豆に素晴らしい場所がある。高い給料も提供する。だから自然養鶏農場をやってくれないかと言われたことがある。しかし、給与で働くのは私には無理だと思いお断りした。
そういう意味では、30年前渡辺氏と出会っていれば、越前高田で自然養鶏をやっていたかもしれない。発想が同じブラックだからである。ただし、給与という保証を貰ってはやれない。自分の人生をかけて試みてみたいかどうかである。たぶんこの考え方は渡辺氏なら理解できる気がするのだ。
渡辺氏を評価しているわけではない。企業労働者というものと、自文のために働く人間の違いを峻別できない社会だから、日本が衰退してゆくという現実である。ノーベル賞を旭化成の社員の方が受賞した。この方もきっと研究をされていた時には勤務時間など関係なかっただろう。
ホワイト企業からノーベル賞が出る仕組みが作れるかである。この発想がワタミグループという事になる。悪用ではなく、一人一人が大切にされるための雇用の中で、時間など忘れて取り組める仕事が作れるかであろう。