石垣島には空き家バンク制度がある。

   


台風で増水した宮良川

 石垣島には空き家バンクという制度がある。貸したい人、売りたい人が登録する。その空き家を行政が掘り起こして、利用希望者が借りることができる制度である。全国の過疎地域で普通に行われている「空家等対策の推進に関する特別措置法」制度である。

 石垣は人口増加しているので過疎地域とは事情が違う。人口が増加しながら、空き家が増加しているのだ。空き家は数百軒はあるだろう。空き家を持っている人が、貸す気持ちにならない。どうやって貸す気になって貰うかが課題なのだろう。

 全国にはそうした空き家が増えていて、地域で問題化している事例も深刻なほど多い。東京などでも、家を壊して更地にすると税金が高くなるので、壊れかかったままの家をそのままにしてある場合もある。

 石垣の場合は東京ほど土地にかかる税金も高くないので、そうした事情とは思われない。石垣の場合、島を出る人が多い。大学へ行くためには必ず島を出る。就職で島を出る人も多数存在する。島を出ると、様々な理由で島に戻りにくくなる事がある。

 しかし、みなさんが石垣島が好きである。これほど暮らしよい、人情のある島である。島を出た人は石垣にいつか戻り暮らしたいという想いを持って、各地で暮らしているのだろう。

 石垣のそうした事情を踏まえた上で、空き家対策に希望があるのは空き家があれば、借りたい買いたいと言う人が沢山いるという点である。今現在登録している人が、56人いるそうだ。空き家の登録が無い状態で、これだけの人が待っているのだ。

 私も最初空き家が沢山あるので、簡単に借りられるのでは無いかと思った。そして探したのだが、実際に貸家に出しているもの、売り家に出している物件はほとんどなかった。何軒もの不動産屋さんにお願いしたのだが、どこからも連絡は無かった。

 不動産屋さんも、東京のように希望の物件を探し出してまでも仲介しようという不動産屋さんは無い。土地価格がそれほど高くないので、仲介手数料もそれほどにはならない。経験的に探すのが困難と言うことも承知しているのだ。新聞には不動産屋さんの、売り物件、貸し物件の広告が出ている。

 石垣島の宅建業界ではひとつの物件を選任で扱うというのが商習慣のようで、複数の業者が競争して販売しようと言うことは珍しいようだ。お互い知り合いがやっているので、競争で出し抜くようなことになるのは避けていると言うことらしい。

 家を探したときにはどの不動産屋さんにも、空き家があんなにあるのに何故借りられないのかと、理由を尋ねた。回答が持ち主の方が、沖縄本島に出られている。戻られるつもりだ。あるいは大阪の方に出ているが、定年になったら戻るつもりなので貸せない。さすがに実家を手放すことはできないという理由も聞いた。

 石垣に家を残していることが、石垣とのつながりになっている。お墓を管理しなければならないという意識がある。家に強い想いがあるので、石垣に家があることが心のよりどころであるのかもしれない。ご先祖とのつながりは石垣は特別に強いと言うことでもある。

 今回改修費に50万円の補助を出すことになったようだ。今までは島の市街地では無い所に出していた補助を、島全域を補助対象にした。空き家を登録すると、家の改修に50万円までの補助が出る。

 市への移住希望者がバンクに登録すると、空き家物件の閲覧、見学ができ、希望物件があった場合、市に物件交渉の申し込みを行う。これを受け市は、利用希望者の情報を空き家所有者と八重山地区宅地建物取引業者会に提供、業者会の仲介で両者が賃貸契約を結ぶことになる。

 正直これだけでは空き家バンクが活発化するとは思えない。宅建業者が新聞広告で探しても簡単に出てこないの状況なのだ。宅建業者の中には、アパート経営を仲介するところもあるらしい。アパートの借り手が多いからである。

 やれることはある。まず空き家の一覧表を作ることである。空き家とその所有者の確認である。どのくらいの期間空き家になっているか。その家は改修可能なものであるのかどうか。面積や土地の関係を調査する。

 地域の公民館などと連携をとり、プライバシーの問題が起きないように慎重に調査を行う。空き家というものは地域の生活にとって、問題が出る可能性もあるという範囲で調査させて貰う。

 そして状況が把握できたならば、一方で登録している希望者の方の意向も調べる。調査は永住希望か、一時的なものか。どの程度の事前通告で、退去の希望には従ってくれるか。家族構成や将来計画など。同時に新たな登録者の募集もわかりやすく行う。私は石垣市にそうした制度があるとは知らなかった。

 次の段階で希望者の情報を添えて、所有者に対してアンケートをとらせて貰う。アンケートはすぐ貸す貸さないでは無く、将来の希望などの況把握のために行う。できれば、このときにその所有者の信頼できる人が分かれば、その人を通して行う。

 この調査は秘密保持が大切なので、市長および調査責任部長が秘密保持の誓約書を添えておこなう。その調査部長の人選がとても重要で、できれば市役所を退職され地域に住まわれている方を市の顧問という形で再雇用して行う。

 そして、その市の専従のような顧問のような形の方が、空き家の掘り起こしを行う。そうした昔からの地域に根付かれた信頼される方が、間に入ることで大分様子が見えてくるはずだ。

 実はこれは私が考えたやり方では無い、南足柄市で農地の貸借を掘り起こし、新規就農者を増やすために、Fさんという農政課長が行ったことである。当時はこのやり方が、違法行為であるという批判さえあったが、今では先駆的な良い試みであったと、評価されている。

 そしてもう一つやるべき事がある。貸したらかえってこないという不安を解消する契約関係をつくる。つまり、貸主が返して貰いたいときには返して貰える制度である。あるいは貸主が売りたいと考えたときに売れるという制度である。

 私が農地を借りるときには、かならず、誓約書を入れる。いついかなる場合も地主さんの希望に従い、土地を明け渡すというものである。実際にはそれで返してくれと言われたことは無い。

 石垣島に越してきたいと考える方は是非とも役所を訪ねて貰いたい。なんとなくとっつきにくいかもしれないが、希望者が顔を出すことで、役所の認識も変わるはずだ。空き家バンクがあると言うことは、基本的には移住者歓迎のはずだ。

 家の場合居住権が生じるので、簡単では無いが、行政が介在することで、この不安を和らげることはできるだろう。そうはいっても石垣での空き家バンクは難しいだろうと思う。だから私はあきらめて家を建てたのだ。もう私にはまっている時間が無かった。
 


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