日本経済の先行き

   

日本経済が、戦後急速に成長し、アメリカに追いつき追い越すような勢いがあった。それは、日本人が優秀で、勤勉であったからということもあるが、むしろ条件に恵まれたのだ。低賃金。高品質の在り余る労働者。教育の普及。公害の規制の甘さ。格安の軍事費。労働人口の急増。低賃金競争国の未成熟。努力が報われる社会。格差解消の流れ、国民の方向が、経済成長にそろった。すべてが日本が急成長する方向へ作用した。それが現状では、当たり前の日本の国力に戻ってきたと考えるべきだ。嘆くことではなく、普通の国になってきたのだから、これでやって行ける道を模索すべきなのだ。今もって、経済成長だけに日本の方向を向けようとすることは、狭すぎる間違えである。国際競争力もいいが、それは企業の問題が中心であり、日本全体の問題でない側面もある。農業まで国際競争力のある農産物を作れと政府はハッパをかけている。馬鹿げているだろう。安倍さんならアラスカで農業をやれるのか。農業には、その国の国土という条件があり、国土を育みながら、食糧を生産するということが農業分野の健全な姿なのだ。

輸出を目的とした、プランテーション農業。収奪的な農業。こうしたものが世界には存在する。そうした経済の合理性だけで動く農業と、対等に競争して勝てる農産物が条件になる。企業的資本が農業を行う場合、日本で行うより、気候的に適合する地域に、労働力の安価な場所に、移動して農場を経営しようとする可能性も高い。それが企業の考える国際競争力である。もちろん、特殊な農業であれば、日本でも可能であろう。日本で偏った農業だけが行われることになれば、食料の安定確保は農業の問題でなくなる。問題の核心は、農業全体というより、稲作のことなのだ。主食である稲作をどうするかを考えなくてはならない。競争に目を奪われているために、国土全体を見る視点が失われている。何故私の主張が農業にこだわるかと言えば、国債競争力のある経済ということは、国家の枠をすでに離れているからである。国際競争の中で企業は利益を優先して、グローバル企業化している。この傾向は今後さらに強まるだろう。

アベノミックスによる日本経済の挑戦は第3の矢で躓いている。1、金融緩和、2、財政出動、これでインフレが進んでいる。消費税の値上げぐらいでは、収まらないほど財政は悪化している。問題は代3の成長戦略が、もう一つなのだ。この分るようで分らない抽象的目標では、道を切り開く成長戦略になならない。成長戦略という以上、具体的展望が大切である。膨大なプランなので、私のある程度想像がつく農業分野に絞って見てみる。たぶん他の分野でも似たようなものだろう。
・農林水産物・食品輸出額:現在の4500億円→1兆円へ(2020年)
・6次産業市場規模:現在の10倍の10兆円へ(2020年)
・農業・農村全体の所得:今後10年間で倍増
という目標が掲げられていて、肝心な具体策はまだ示されていない。いくらか出てきたのが、減反廃止。農地バンク。企業の自由参入。

建前がきれいに並んでいて教科書的である。具体展望があるわけではない。農村の所得が10年後に倍増しているイメージを持つことはできない。農村人口が10年で半減していることは、ほぼ確実だろう。農業は産業に入れていないのか、格差が広がる方向を目指していることはわかる。有能な人材が、一部の農業企業を利益に導くのだろう。稲作も日本に10社の農業企業が行うことになる。平等とか、公平とか言っていれば、国際競争に負けるというのが、共通認識になりつつある。つまり極端な能力主義の国が登場して、そういう国に追い越されかかっているという恐怖感があるからだ。しかし、格差社会は必ず失敗をする。もうその兆候は表れ始めている。低賃金の自由のきく労働力を持っている間は、成長するが、いつまで続くものではない。大きな破たんが待っている。その社会的フラストレーションの矛先が、日本を持ち出す、ガス抜きなのだ。

 - Peace Cafe