コウノトリの山口への飛来
コウノトリは豊岡市が熱心な保護活動を続けることで、ついに野生化に成功した。10羽のコウノトリが、山口まで飛来したという、ニュースがあったということは、将来の見通しが立ち始めたと考えてもいいことだろう。トキも人工飼育が成功し、放鳥を続けている。近い将来自然繁殖にも成功するのではないか。北海道の釧路湿原ではタンチョウヅルも、長年の保護活動の結果北海道では10羽が1000羽を越え、先日のテレビでは1500羽程度と数を増やしたと報道していた。アホウドリの場合もほぼ絶滅を免れたという成果を出している。いずれの成功も大型野鳥の復活ということで素晴らしい成果だ。日本の自然保護活動の、すばらしい結果である。活動されてきた方々の、大きな努力が背景にあるに違いない。日本のタンチョウヅルは一度は絶滅したと思われていた。たまたま、渡りをしない一群が釧路に残っていたという幸運によって、復活がされたという奇跡がある。しかし、現状でも冬の給餌活動がなければ、10分の一の数に減少すると言われている。
大型野鳥が絶滅に瀕した理由は、日本の自然が、というより田んぼが農薬や化学肥料に汚染された事が一番の原因である。そして、冬の田んぼの乾田化が餌の減少に拍車をかけた。その他アホウドリのように、羽毛をとるために捕り尽くしてしまった、というような事例もある。復活の背景は自然環境が改善され、増加してきたということでもない。あくまで人工的な手助けがあっての復活である。釧路湿原でも開発の中で、営巣地が今でも狭められている。幸いタンチョウヅルの場合営巣地を十勝地方まで広げながら、生息数を増やしている。新しい問題は、農業被害である。ツルは日本の農村では、田んぼを荒らす害鳥というイメージが強かったようだ。コウノトリの保護活動でも、農業被害の実態調査が、保護活動のスタートになっている。田んぼを踏み荒らすという事がどの程度のことか時間をかけて調査をした。これが意外に被害を与えないということがわかり、豊岡市全体の取り組みになった。現在はコウノトリ米の販売などに活動が広がり、コウノトリの暮らせる豊かな田んぼ作りに進んでいる。
減少の要素の一つが、冬季の乾田化である。乾田する理由は工業用水の確保にあったと思われる。農水省も乾田技術を増収方法として、農業技術普及所を通して、普及して行く。今では、乾田化は当然の技術として受け入れられている。実体としては、もし冬季に田んぼで耕作をしないのだとすれば、乾田化すべき田んぼもあれば、水を張っていた方がいい場合と、その自然環境に応じて考えなければならないことである。いずれにしろ、水路には水があった方がいい。一律に全国に普及する技術の意味はなかったのである。田んぼの環境維持力を考えれば、地域の環境に応じた手法を探るべきである。冬季の間水路に水が流れないということで、地域の小川の生態系もかなり影響を受けた。稲作地帯であるからと言って、生物相が豊富とは言えないのが、現状である。そうした、工業的な稲作を否定する訳ではない。自然環境の為に、維持すべき稲作を指定して、環境保全すべきなのだと思う。
鳥類は近親交配を乗り越える遺伝的な力を持っている。それゆえに、10羽以下の羽数になっても復活する可能性がある。この点では、哺乳類とは少し違う事情があると思う。山階鳥類研究所では希少鳥類の生存と回復に関する研究をされている。特にアホードリに関しては、長期に及ぶ保護活動を継続している。その記録を読むと日本鶏でお世話になったことのある、柿澤先生のお名前もある。500万羽のアホードリを殺戮するのも人間であれば、数羽になってしまったものを何とか復活させたのも人間である。考え方一つで、鳥の未来が変わってくる。