家庭イネ作りの経済

   

家庭イネ作りの費用はどのくらいかかるのか。長年の結果からすると、120キロのお米が1万円で手に入ると考えればよい。私の家では2人分の一年間のお米が1万円で十分という事になる。これが農の会の稲作の目標であり、達成したものである。今年おおよそ4反ほどの田んぼで、15家族で稲作を行った。その結果がどうも8000円以下の一人分担というのだ。安すぎるので驚いた。10家族で2反をやるという態勢で1万円という事のようだ。嘘のように安いので、間違いだというコメントが来たことがある。しかし嘘偽りなく、これが農の会25年の歴史的結果である。機械をどうしているのかというのが一番の疑問のようだ。共同使用である。機械は壊れる。まあ、壊す、壊す。私もよく壊すので近在の農機具屋では有名な方だ。「あんたか、よく壊すので聞いているよ。」と初対面の農機具屋に言われたことさえある位だ。今はあちこちの農機具屋に騙されて、もう農機具屋には行かないことにしている。

農業機械は簡単には直せないように作られている。ねじ一つ外せないように仕組まれている。私にはそう思えるほど、直しには不親切なつくりだ。それでもある程度まで自分で修理できなければ、家庭イネ作りは不可能である。家庭イネ作りと言えども、機械は使わざる得ない。工夫してもねじが回せない人では、イネ作りはできない。おかしなことだが、そういう事になる。すぐ農機具屋に行くようでは、忽ちに1万円では済まないことになる。機械は共同で使わなければ、高価なものになる。100人で使っても、一人で使っても同じ費用になる。100人で1万円だったものなら、一人なら10万円と考えざるえない。機械貧乏になる。そこで一人でやるとしたら、一切機械は使わないと考えるだろう。機械を使わないで一番困るのが、脱穀から籾摺り精米までの工程になる。干したお米を手でしごいてとることになるか。千歯こぎくらい工夫して作れるかもしれない。それでも籾摺りという事になれば不可能であろう。開成町の瀬戸屋敷の水車で籾摺りを試したことがあるが、一日かけて20キロ程度であった。これを手で叩くなど考えたくもない。ここだけ、農家に頼むという事もあるが、やってくれる人がいれば幸運なことだろう。

家庭イネ作りの経済は一人ではなく、やはり協働という事になる。それが日本の伝統稲作だ。瑞穂の国日本は田んぼを協働作業でやるという合理性からできた。一つの部落が田んぼという繋がりで出来上がる。しかし、現代はこうした昔の協働する集落というものが崩壊した。様々に煩わしいので当然とはいえる。一人一人がバラバラにイネ作りを行う。水の使い方でも自分のことしか考えない人が多数派である。新しい協働を見つけようとした仕組みが、農の会のイネ作りだ。安く上げるためには、働く時間を増やすしかない。ここが問題である。誰もが忙しい時代だ。はざがけの棹は竹を切り出せばただである。はざがけ機材を購入するれば、1反分で10万円もする。はざがけ脚を自作すれば、ただであるが時間がかかる。このバランスである。この時間がかかるを楽しみとしてやれるかどうかが、分かれ道であろう。負担だと思えば止めた方が良い。

イネ作りは面白い。生計を立てなければならない主業ではないから面白いのだろう。しかし、趣味だからこそ専業農家よりも真剣に取り組まなければならないと考えている。今年は3反で11枚に分かれた棚田で、反収605キロの畝取りが出来た。有機農業の家庭イネ作りが、慣行農法の稲作農家を超えているのだ。江戸時代さながらのイネ作りがやはり優れていたという事が証明できた。江戸時代が飢餓の時代だというデマが払しょくできると思う。愉快でたまらない。人間は100坪の土地で一日一時間働けば食糧の自給はできる。シャベル一つの開墾から始めた、ここ30年間の自給生活でそうしたことが証明できたと思う。これほど楽しい試みはなかった。やりたいことをやる。遊園地にお金を払っても行く人は居る。田んぼは遊園地以上に面白い。これが食糧の自給になるのだから答えられない。昔のニワトリの本には必ず書かれていたのが、趣味と実益を兼ねてという副題だった。生きるという事を趣味にしてしまえば、経済は別会計になるという事なのだろう。

 

 

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