マイクロバイオーム

   

先日の発酵学の児玉先生の講演の中で、マイクロバイオームの事をちらっと言われていた。サイエンス誌で特集があったというのだ。早速読んでみた。去年の10月号である。これが面白い。人間の中には人間の細胞数の10倍もの細菌が生きている。この細菌たちをマイクロバイオームという。人間の生命活動を助けてくれているというのだ。その助け方が、免疫や消化を助けると言うことは昔から言われていたが、人間の感情にも影響している事が分かってきたというのだからすごい。ある微生物の出す酵素によって悲しく成る。楽しくなる。怒りたくなる。私が突然切れて怒りだしても、それは微生物のせいかもしれない。人間が生きているというのことが、どうも微生物に生かされているということである。この微生物がどのような構成になっているのかが、徐々に解明されてきたらしい。解明されてきてみると、宿主の人間に個人差があるように、微生物の構成も人によってかなり異なるらしい。これは面白い。微生物が変われば人間が変わる。

日々の食事が人間を作っているという事が、これで確認が出来たようなものだ。人間は食事をして、身体の細胞の代謝を作り出している。同時に、細胞の数以上の微生物も育てていた。この微生物叢の方は食事で細胞以上に変化する可能性が大。そして微生物が変われば性格も変わる。草食男子等と、最近の若者は揶揄されるが、何ら恥じることはない。肉食女子よりは大分微生物叢が良さそうである。すぐキレる若者が言われていて、ファーストフードが悪いなど言われてはいた。実はファーストフード好きの微生物が問題児のようだ。実に納得のゆく見解である。ある種の精神疾患にプロバイオティック補助食品というものを、商品化しようと言う事が書いてある。ああとんでもない。良い食べ物を食べるべきだ、良い食べ物とは、1里四方で採れたものである。野菜中心であり、偏食でなく。食べ過ぎないことだ。

免疫に関する疑問も、体内の微生物層の働きを考えれば、かなり見えてくる。アレルギーの問題なども、免疫力の問題というより、マイクロバイオームの変化が影響している可能性が大きい。現代人の、特に日本人の衛生観念が体内の微生物を減少させていないか。構成を単純化させていないだろうか。肉食の増加や、ファーストフードの利用が微生物層を弱らせていないか。今まで免疫を考える際にぶつかっていた疑問が、かなりの部分で氷解した気がする。

山北に入植して自分が変化したことを自覚した。東京に居た頃と、山北で自給自足を始めてからでは、人格が変化した。それは絵が変わったことで気付いた。それまでは、作り上げた絵を、よく言えば創作した絵を描いていた。自分の絵の世界を構築しようとしていた。その絵の世界は2次的情報によってもたらされたものであった。そうした作業が山北に移住してからは、吐き気をもようして出来なくなった。ただ眼前にあるものを受け入れる他無かった。徐々に、その受け入れ方に自分というものがある気がするようになった。食事が良くなったのか、悪くなったのかは、それぞれの判断である。少なくとも絵を描くと言う事が、競争したり、人に勝つためのものではなくなったのはほっとした。負けることが少しも怖ろしくなくなった。わずかの安心立命である。先端学問がたどり着こうとしている世界が、実は、仏教哲学では経験的にすべてが分かっていたことだ。ここが何とも面白い。


ーー服部正平 東京大学大学院新領域創成科学研究科教授。
血縁関係が近かったり,同じ衣食住の環境にあっても,ヒトの体内の細菌叢のパターンは1人ひとり異なる。一卵性双生児の間でも違いがみられる。
一方で,ヒトの細菌叢の持つ遺伝子を調べると,多くの人が共通した細菌の遺伝子機能を持っていることがわかってきた。細菌の種類は様々であっても,その遺伝子(機能)はほぼ同じである。ヒトは自らに役立つ遺伝子をもとめて細菌を選んできたとみることができる。
細菌叢の遺伝子をひとまとめにして解析するメタゲノム解析という方法で,こうしたマイクロバイオームの謎が次第に解き明かされてきた。
腸内細菌など腸管の細菌叢の乱れが,免疫機構を通じて,全身の病気や健康と関係しているという見方が有力になっている。

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