農業者の時間給は630円

   



 日本は食料自給が何故出来ないのかの理由は、農業者の減少が一番の原因だろう。何故農業者が減少しているかと言えば、収入が低すぎると言う当たり前の理由になる。農業は産業として成立していないのだ。特に主食作物、米作りはそれが顕著である。
 お米は近年一人当たりの消費量が減少して、かつての半分くらいしか食べなくなっている。これは戦後の学校給食でパンを取り入れたことによる、食生活の変化が大きいのではないか。まず学校給食を米飯急速に戻すことから始める必要がある。

 老齢化した年金農業者か、補助金農業者ばかりが増えている。新規就農する人の中には、就農補助金をもらうために、形ばかりの新規就農をする人も多数存在した。農業者が農業収入だけでは生活できないのでは問題である。スマート農業や企業農業で農業の生産コストを下げなければならない。

 国民皆農も考える必要がある。自給農業の推進である。中山間地の条件の悪い農地は、自給農業者が耕作する。生産コストを考えないでも構わない、農業を楽しみとして働く人が行う。農地を色分けする必要がある。条件不利農地は使いたい人すべてが使えるようにする。

 そして一番の問題は、日本の農業を支えてきた普通の農家はこれからさらに減少することにある。肥料や燃料費が上がり、営農としてはどうにもならない状況である。少しぐらいお米の値段が上がっても、生産コストの必要経費の値上がりには到底届かない。

 日本の実質賃金は長年目減りを続けて、最低賃金が1000円をやっと超えた時代である。OECDの中では最低水準で16位である。これでは企業に勤める労働者が暮らしていけないと問題化している。農業者の場合平均時間給が630円になると出ていた。専業農業者は生活困窮者になる。

 農業だけでは生きていけない。兼業農家が多い理由である。兼業の方が主たる収入になり、農業の赤字が税金を減らすので、農業で利益が出ないでも止めないでいられる。これが年々農業者の年齢が上がって行く主たる理由である。アパート収入の税金を減らすために、農業をしている。

 若い人のことを考えたら、到底農業を始めるなど、考えにくい状況になる。ではよその国はどうしているかと言えば、食料自給を維持するために農業者に補助金を直接払いしている国が多い。補助金を出さないで、食糧自給を達成している経済先進国はない。

 今から45年前になるが、フランスにいたときにドイツで農業をやっているという人と友達になった。その人はある期間だけナンシー大学に勉強に来ていたのだが、ドイツの出身地の農地を維持しているだけで暮らして行けると言っていた。

 ドイツは農業者が急激に減少したために、農業者の増加のために地域が荒れ果ててしまったのだ。そこで農業をやりさえすれば生活できるという条件を作ったらしい。そうしたら減少していた農業者の数が増加に転じて、ドイツは食糧自給ができるようになったと言うことだった。

 日本は主食農業など止めれば良いと総理大臣が発言するような、国の安全保障の根幹を理解いない国なのだ。だから、農業は産業としては崩壊した。しかも国も対策を打ち出さないまま、ここまで来てしまった。日本は気候的にも水環境も恵まれた国である。農業政策の方向は諦める必要はない。

 対策は三つある。まず、政府が今も示している、大型企業農業が中心のものとして重要である。生産コストを下げるためには、農地の合理的な利用方法である。まだまだ、中途半端な状況だ。農地の集積や労働者の問題も農業企業と言えるほど合理化されていない。

 トヨタや三菱商事のような農業大企業が生まれなければダメだろう。日本全体の農地の50%以上をそういう大企業が利用するようになる必要がある。そこまで出来れば農業の生産性も、世界水準に改善されるはずだ。たぶん総合農業会社で有り、畜産と野菜と米などを総合的に回して行くようになる。

 新規就農者は農業大企業に勤める人が中心になる。給与も商社に勤めるのと同等の賃金にならなければダメだろう。日本の農地の条件を考えれば、オランダなどより遙かに良い農地だ。日本で出来ないはずが無い。政府が半導体企業に出資するのと同じくらい力を入れなければ出来ない。

 そして、自給農業の奨励である。何故自給農業が必要なのかと言えば、国の安全保障である。企業が利用できる農地は競争有利な農地である。しかし、野市が維持されることは、環境のためには重要なことになる。水田ダムが言われるが、農地が人間の生活環境を維持している部分が大きい。

 そして新しい人間の生き方が自給農業にはあるからだ。自給農業で食糧を確保する。そのことで自由な職業の選択が出来るようになる。好きなことをして生きるという人間らしい生き方を出来る、基盤が出来ることになる。食糧自給は一日一時間の労働で可能である。私の40年の体験の結論である。

 1日一時間肉体を使って働くことは健康のためにもとても良いことだ。そして自分で生産したものを食べる。これほどの地産地消はない。SDZSにかなっている。健全な精神を維持することが出来る。本来の人間らしい暮らしがそこにはある。そして好きな仕事をすれば最高である。

 中山間地の環境が自給農業で維持されれば、国の経済としての合理性もある。だから、国は自給農業の農地の時代を負担する。環境維持費用だ。国が農地利用をしない農地所有者に費用を払う。あるいは農地所有者から、購入する。自給農業者が自由に農地を使えるようにする。

 そして最後に今の農業者はどうなるかである。自分の畑を国に貸して、あるいは農業企業に貸す。自分は農業企業に就職すると言うことが一つの選択である。農業者は新しく企業に入る職員の指導をする立場になるのだろう。長年のその土地での農業経験が生きることになる。

 そして、ご先祖から受け継いだ農家として経営を続けたいという人には、直接払いを行う。営農で生活できるだけの収入を保障する。機械の協働利用や周辺農家との連携を作り、ネットワーク農業を受け入れて貰う。小さな農家のネットワーク化で合理性を模索する。

 この三つの農業形態をそれぞれに模索するべきだ。生産効率の良い、企業農業。地域を守る小農。そして、自給農業者。

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