トゥバラーマ指導日
石垣では八重山民謡の中でも最高の曲と言われるトゥバラーマ練習日というものがある。月一回開かれている。今回が266回目という事で、昭和の時代から続いているものだそうだ。石垣の唄に寄せる覚悟のようなものが分かる。無料で誰でも参加できる。たまたま第3水曜日に石垣にいたので、聞かせてもらうだけでもと思い参加させていただいた。石垣健康福祉センターの視聴覚室である。ともかく大感激してしまった。今までこの歌の魅力というものは感じてはいたが、この歌の音楽性がどれほど深いものであるかを、入口ぐらいと思うが知ることができた。指導は師範の先生が3名見える。石垣の八重山古典民謡の会が主催されているそうだ。その日参加していた人はⅠ4名で北海道から見えていた人もおられた。3名の師範の方も神奈川出身の方、北海道出身の方、そして石垣の方と八重山民謡の広がりを感じる構成である。八重山古典民謡の会の数百人おられる師範の中から、派遣されるのだそうだ。
この歌は八重山民謡の中でも最高峰の唄という事で、この歌だけのコンクールが年一回開かれている。師範の先生方の声の美しさに、まず感動した。なぜこれほど美しい声が出るのかと不思議になる。人間の声は鍛えればここまで美しくなるもののようだ。高い方のソやラに当たる高音で唄われるのだが、まるで人間業とも思われない得も言われぬ天の声のようだった。今までも何度か聞く機会はあったのだが、すぐそばで肉声で聞くとまた格別である。声を出して少しづつついて唄った。全く初めて歌うのだからおっかなびっくりであったが、終わりの頃はそれなりに真似て歌い、何か成し遂げたような達成感があった。帰ったらいよいよトゥバラーマに取り組むつもりだ。そう簡単には歌えるようにならないだろうが、10年かかってもやっては見たいと思う。ともかく一生懸命声を出すという事は悪いことではない。まして、三線を弾きながらとなると、ボケ防止には効果があるにちがいない。
トゥバラーマの成り立ちは、男女がかけあうように唄を重ね合わせながら唄うようになっている。この旋律の違い、音調の違い、ここに絶妙な味わいがある。それに三線と笛が加わるのであるが、唄とは違う旋律とリズムで鳴らされる。この総合によって実に複雑で優雅な唄が生まれる。この曲では三線は太鼓のようなリズムを刻んでいる。また前奏もなかなか優雅で、今回教えて頂いた前奏は独特のものでかなり難しい気がしたが、リズムの取り方が美しいものだ。家に戻りやってみているのだが、やはり先生の指導を受けなければやれるようになるとは思えない。また高音部というものは先生の高い声を聞きながらだと、引っ張られて出たような気になるようだ。特に女性は一オクターブ高いところで声を出していいて、相当に難しいと思う。
いわゆる民謡調という範囲には入らない、何か壮大な音楽性を感じる。八重山が音楽文化の地域だという事が分かる気がする。伝統文化が至る所で失われている。それは地方の消滅という事と繋がっているのだろう。幸いなことに石垣島は人口は増加傾向にある。トゥバラーマの勉強会にも若い人が見えていた。こうした勉強会が続けられ、若い人たちに引き継がれてゆくことを祈る。八重山や宮古が日本文化の最後の砦になる可能性もあると思う。何とか努力を続け、八重山の唄をせめて聞けるようになりたいと思う。今度石垣に行くときにも、第3水曜日は必ず入れるようにしたいものだ。