キヤノングローバル戦略研究所山下 一仁氏

   

山下 一仁 氏(キヤノングローバル戦略研究所)は農業政策についての数少ない評論を続けている人だ。よく読ませていただく。その主張は、米価が下がっても、農家所得に占める農業所得の割合が低い兼業農家の人たちは、影響を受けません。影響を受ける主業農家には、財政から直接支払いを交付するという方法があります。農協は協同組合であるという理由で独占禁止法の適用除外を受けてきました。農産物の生産コストである肥料・農薬、機械などの資材価格が高くなるので、農産物・食料品の価格も高くなります。農協の全国組織である全農を株式会社化して、独占禁止法を適用すれば、農産物価格は下がることが期待できます。農家に4,000億円の減反補助金という納税者負担を行って、米の供給を制限し、米価を上げて6,000億円の消費者負担を強いるなどという、政策が、長年続けられてきています。また、国際価格よりも高い米などの農産物価格は、高い関税で守られてきています。高い関税で食料品の価格を吊り上げることが国益だというのは、変ではないでしょうか?

と言うような調子で今の農業のあり方を強く否定している。農政に関して意見を述べる人が少ない。経済畑の人には踏み込みにくい分野であるし、既得権が複雑に入り組んでいて、単純には背景が見えない。山下氏は農水省に居た人ではあるが、農業の現場については、やはり知識が揺れる時がある。先日稲作の作業分散の事を読んだが、中山間地では標高差による気候の違いを利用して、田植えや稲刈りを2,3ヶ月の間に、伸ばして作業分散が可能だと書いていた。稲の場合、品種による早生から晩稲までを使えば、5月から6月とどこでも作業は分散できる。問題は、水の確保である。地域によって、田植えや、水きりの時期は決める。自分が3ヶ月もの間、作業分散をしたいからと言って、地域全体で合意しなければ出来ない事になる。また同じ稲の品種であれば、山の上でも、平野部でも、田植え、稲刈りの時期は2週間程度の違いの作物である。

読んではいないのだが、「農協解体」という本を書いている位だから、安倍政権の考え方には近いのだろう。農産物を普通の商品と同じにする。そして、主業農家自体には財政から直接支払いを交付すると主張している。TPPが妥結すべきだ。米価は下がり消費者はありがたい結果になる。当然減反補償は無くす。経済競争の中に、農業も入れる必要がある。そして、それでは利益が出ないでつぶれる農家には「直接支払いをすればいい。」という主張のようだ。直接支払いで、すべてが解決する様な問題ではないはずだが、良い仕組みが出来れば、一つの解決法ではある。問題点は十分承知なうえで、単純化してそういう主張をしているのではないかと思われる。と言う事は、様々な既得権的な補助金政策をひとまず撤廃して、新たな直接支払いと言う補助に変える。この直接支払いと言う物は、具体的に言えば、中山間地の農業補助金の様な、生産の実態とは別に、農地の置かれた状況に応じて支払うというものが、ヨーロッパ型の直接支払いのようだ。

現在、小田原では初めてとなるだろう、中山間地の支払制度を申請しようとしている。やってみなければ分からないので、一度試みてみたいと考えている。本来であれば、都市近郊の小田原が、なぜ中山間地かととなるが、別枠で知事が行う、特任地域指定と言うようなものがあり、特に急傾斜地であれば、指定できるというようなことだ。その他いくつかの縛りがあり、単純ではない。注意して見ておかないとならない事は、こうした直接支払いが企業参入促進のために行われる可能性が高いことだ。企業が参入するのは悪くないが、企業が補助金が欲しいがためにだけ、農業に目が向いているのが現実がある。工場で作物を作る事と、農地で作る事を同じ視線で見ている。その結果合理性はあるが、地域全体を取り込むような総合性が無い。どうやって地域と言うものを維持して行くかという事と、企業の農業参入とをどうかみ合わせる事が出来るかである。

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