犬は言葉が分るのか。
山北の斜面の畑 10号 前に住んでいた家のそばを描いた。前畑だった所も、いつの間にか山に戻っている。畑に行く道も、通れなくなってしまった。
犬は人間の言葉を理解する。そういう犬もいた。という話を書きたい。今一緒に暮らしている、ドンちゃんも福も言葉は分らない。大抵の犬には言葉は理解できない。人の様子を想像して対応しているのは明らかなようだ。言葉を理解していたとしか思えない犬は、子供のころから長く飼った、ラブラドルリトリバーのクロだ。この犬ほど人間の言葉を理解した犬はほかには知らない。今そばにいて不満を表明しているのが、猫のリンチャンでこの猫は確かに頭が良い。理解力が抜群である。例えば、私が寝に行くかと声
をかけたら、間を空けてついてくる。誇りが高いから、ひょこひょこは来ない。もったいぶってきてやったぞという感じで、寝床に顔を出す。しかし、こういうのは言葉を理解しているというのではない。全体の気配で、人間の行動を読んでいる。言葉というより、私の頭の中に湧いているものを感じて以心伝心という感じだ。言葉が分る以上にこの方がすごいというのもあるのだが、リンチャンを褒めて置かないと今も怖い顔をしている。自分のことを何か考えているなと推察できるのだ。すべてをお見通しという感じが、猫のリンチャンにはある。
ところが、ラブのクロはそういうことではなく、完全に言葉の意味を聞き分けていた。それは実験をしてそういうことが分ったのだ。クロは私と一緒にあちこちに引っ越したのだが、私が高校に通う頃は、ブルドックのブルちゃんと一緒に松陰神社の家に暮らしていた。そこそこ広い庭がある家で、ぐるりと高い塀で囲われた、庭で自由に暮らしていた。ブルちゃんの方は家の中にいたのだが、クロの方は、縁の下が好きで、そこを勝手に住みかと決めて、離れようとしなかったのだ。たぶん、縁の下には、ブルも行けないし、人間も行けないので、勝手に自分の最善のすみかと考えた。都合の悪い時は、そこに隠れて出てこない。それでは庭だけが好きなのかと言えば、家の中も妙に好きで、高い窓から家に入り込んで、棚の上でうずくまっていたりする。人間が気がつかない状態で、そういう所にジーとしているのが好きだ
ったのだ。暗い中でテレビを見ていると、いつの間にか後ろに来て、這いつくばっているというようなこともあった。
犬らしい面白い行動ばかりしていたのだが、縁の下をあちこち移動しているのだが、おおよそリビングの下に入り込んでいて人間の話を聞いているのだ。何で話を聞いているのかは分からないが、話題をかなりの範囲で理解しているらしいと思われた。だから、クロという言葉が出ると、慌てて縁の下からはいずり出てきた。だから、意識して使わない様に家族で決めた。クロを表すのに、白でない奴とか言うことにしたのだが、それでもクロのことを話題にしていると、すぐばれてしまう。どうもこれは言葉を理解しているとしか思えないので、実験をしてみようと言うことになった。自分のことを話していると理解すると出てくるのだから、いくつかの話をして、本当にクロのことを話題にした時に出てくるかを試したのだ。もちろんクロとかラブとか、犬とかの言葉は使わない。尾の長い奴が、隣の猫を追い回していたが、あれは何でか。等と話す。もう話題がふられた途端に飛び出てくる。それが関係のない話をしてもウンでもスンでもないのだ。
色々試したが、これは言葉を理解しているという結論に成った。何度か書いたが、この犬は最後には自殺をして死んだ。自殺をする犬などあり得ないかと思うだろうが、手すりを乗り越えて屋上から飛び降り自殺をした。しかも、下がテラスに成っている迷惑のない場所へだ。病気に成って、とても苦しがっているので、畜産科の大学院にいた兄が、明日は大学へ連れて行って、死なせてあげようという話をしたのだ。これを聞いてしまったのだ。聞こえた訳もないと思われるのだが、クロはいつも人間の話を聞くのが好きだったのだ。クロから学んだことは山ほどある。ともかく生涯通して、明るくて、陽気だった。一緒にいるとすぐに楽しくなった。怒るということが全くない。ブルが悪いことをしても、代わりに自分がやったと言って謝ってくる。許してやってくれという訳だ。その後色々の犬を飼ったが、クロの様な犬に出逢うことはない。