白鵬宮城野親方と相撲協会

小さな5番田んぼの苗代、「ハッピーヒル」
大相撲は大阪場所が始まった。1横綱4大関の布陣である。若手が力を付けてきて、上位陣は荒れる春場所と言われるとおり、上位陣は安泰とは行かない毎日である。すでに横綱照ノ富士は4日目で2敗。大関霧島は4敗。震央関の琴ノ若は3勝1敗で順調。
しかし、白鳳と相撲協会の関係がこじれて、場所中にもかかわらず雑音の方が大きい。宮城野部屋の北青鵬は先場所、破門に等しい引退になった。北青鵬はまさに大器で、今一番の横綱候補であった。相撲はまだ甘かったのだが、2mを超える身長でありながら、相撲の取れる動きである。
白鵬親方はその弟子北青鵬の教育に失敗して、宮城野部屋の閉鎖が決まったと言われている。この処分が正当なものであるかどうか、今後問題化しそうである。モンゴルから来て、相撲協会に貢献してきたにもかかわらず、人種差別問題が出てくる可能性がある。伝統文化の中での外国人問題は複雑に絡み合う。
ただし、白鳳の場合は親方に就任するときに、誓約書を取り交わしている。現役時代3回の処分を受けていて、白鳳は日本の相撲の世界のしきたりを無視してきた。今後協会の考えを大切にするという誓約書を書かされて、親方になった。にもかかわらず、相撲のしきたりを一向に遵守しないのだ。
直接のことの起こりは、弟子の北青鵬が、弟弟子に暴力問題行為を繰り返していたことを、白鵬が師匠の立場でありながら、見て見ぬ振りをしていたことだ。しかも、それを相撲協会の調査の際して、隠蔽しようとした。暴力の根絶を目指す相撲協会としては、厳しい処置を執ることになった。
しかし、同様の事件が過去にも繰返しあったのだが、その時の処分に較べて重すぎる。しかも部屋の閉鎖まで行われると言うことで、表面だけで考えると何か不当処分に見えないことも無い。しかし、この事件の背景は根が深く、ある意味過去の貴乃花事件に似ている。
貴乃花事件を思い出してみると。白鳳は貴乃花の弟子貴ノ岩が暴力を振るわれたときも見ていて黙っていた。しかし、貴乃花部屋は暴力に満ちていたと言われている。昔の相撲部屋の鉄拳制裁が当たり前が、貴乃花部屋では継続されていた。そして、日馬富士にビール瓶で殴られた弟子のモンゴル出身の貴ノ岩は、その後やられて抗議したくせに、弟弟子に暴力を振るって、引退になった。日馬富士もその暴力で相撲協会から追放になった。
暴力事件は相撲の世界では、強くなるためには当たり前の事であった。そして、その暴力で死んでしまった事件さえある。しかし、日本人力士は暴力部屋では育たなくなってきている。運動部でも慶応高校野球部のように、自由で自主的な野球部が甲子園で優勝する。
しかし、全体で見ると、モンゴル力士はやはり破門された横綱朝青龍のように、暴力に対する意識が、少し違うようだ。戦前の軍国主義時代の日本のような状態の意識の人なのかも知れない。強くなるために暴力が必要と考えて、暴力を許容しているのかも知れない。
この意識の違いが今回の事件の根底にあるのかも知れない。そして意識の違いはもう一つある。モンゴルでは日本で相撲取りで強くなった人が、政治家になる人ことがある。日本では、過去に政治家になった相撲取りはいないのではないか。身体が強いと言うことに対する意識が違うのだろう。
白鳳の部屋の経営感覚を見ると、他の部屋とは少し違う。今回の弟子北青鵬は、両親に連れられて、子供の時に日本に来ている。どうも、白鳳は北青鵬と同様にモンゴルから有望な子供を日本に連れてくるというやり方を、かなりの数行っているらしいのだ。
その理由は外国人力士枠があり、各部屋1人と決まっている。あまり外国人が増えすぎないために、相撲協会が取った対策である。以前は一部屋2人までとなっていたが、2002年に1人となった。しかし、先輩力士が日本国籍を取るなどして、外国人枠の抜け道を探す部屋が出てきた。
北青鵬は子供の頃から10年間日本にいたので、外国人枠からはずれた力士である。この抜け道を白鳳は考えて、モンゴルから子供のうちに有望なものを呼び寄せていると言われている。日本の子供も確保するために、白鳳杯という子供相撲大会を現役の頃から開催している。
つまり、白鳳の相撲部屋の経営感覚はずば抜けているのだ。このまま行けば、白鳳が相撲界を支配するだろうと、相撲の世界全体が不安に包まれていたのだ。そこに暴力事件が起きたので、この機会に白鳳の抜け目ない弟子養成法を抑えようとしたのだ。
これは貴乃花事件にも似ている。貴乃花の場合は、国民的な人気があまりに高く、貴乃花の発信力が相撲協会より勝っていたのだ。当然部屋にも有望力士が集まるし、理事にもなる。何とか貴乃花を押え込もうという人達は、暴力事件を機会に、貴乃花を悪者にすることに成功したのだ。
今回も白鳳のモンゴル出身力士や、日本の子供達を白鳳杯で集める弟子の養成方法に対して、危機感を抱いている相撲協会が、白鳳潰しを図っていると考えて間違いないだろう。相撲協会はそういうもたれ合いで出来ているのだろう。しかし、それだけでは問題は終わらない。
もたれ合いは伝統芸の世界では当たり前の事になる。歌舞伎や能に外国人枠など無い。相撲は微妙なところで、相撲協会としてはオリンピック種目にしようなどと言うことはない。スポーツでは無いのだ。オリンピック種目になれば、日本の横綱が、メダルが取れないかも知れない。当たり前の事だ。
世界で見れば横綱が弱い。それでは興行としては困る。その意味でモンゴル出身者がこれ以上増えることは、相撲協会としては避けようとしているのだ。何しろ横綱や大関がモンゴル勢が占めて長い。このままで良いのか。幕内力士の半分はモンゴル勢になって良いのかという、危機感があるのだ。
そこに、モンゴルの暴力問題が絡んできた。日本はすこしづつ暴力から離れてきた。昔のお父さんは普通に子供に手を挙げたのだ。今そんなお父さんは居ないだろう。いや居ると言えばいるが、それはもう犯罪者である。子供を殺してしまう親が居るが、それはまた別問題だ。
モンゴルでは暴力教育が許されているのだろう。この文化の違いがここで問題にされたのだ。相撲協会としては、これは人種差別問題ではない。あくまで暴力根絶だという建前で、宮城野部屋の閉鎖まで進もうとしている。しかし、過去の事例も含めて裁判は覚悟しなければならないだろう。
白鳳は今のところ全く意見を表明はしていないが、白鳳の性格を考えれば、黙っているはずも無い。黙っているとすれば、何か戦略があるからだろう。しかし、あれほど強かったのにもかかわらず、あまり好かれなかった横綱である。相撲が暴力的だったことから、暴力容認と思われている。
今回の問題は、相撲が外国出身者を受け入れたときから、考えておかなければならないことだったのだ。過去に力道山さんや、玉の海さんは朝鮮人力士だった。曙さんが最初の外国人横綱では無かったのだ。力道山はあまりの虐めのひどさと、大関にはさせて貰えないと言うことで、相撲からプロレスに転身したと言われている。
相撲界の外国人力士問題は、日本人全体なのかも知れない。はっきりと相撲はスポーツでは無く、伝統芸能だと表明すべきでは無いだろうか。強いだけではだめと言うことを明確にした方が良い。心技体と言うことで、心が横綱で無ければ成らない世界と決めるべきだ。