石垣の唄者饒平名 久乃さん
三線づくり体験で作った三線。
石垣島は唄の島といっても良いだろう。大工哲弘さん、ビギンやキーヤマ商店、夏川りみさんは有名だが、他にもたくさんの唄者がいる。大島保克三は最高の唄者だと思うのだが、最近消息が分からないので不安でいる。アートホテルでは「ゆいぐくるライブ」が毎晩ある。土曜日の唄者は饒平名 久乃さんだった。初めてだったのだが、素晴らしい唄を聞くことができた。元ちとせさんの声に匹敵する声の持ち主である。特に「ちんさぐの花」は多くの唄者が唄う。饒平名 久乃さんの歌には心打たれた。実に単純で素朴唄色なのに、多様な世界を感じさせる。三線に始めて触る人も3時間あれば十分に演奏まで可能である。しかも、琉球民謡の真髄まで含んでいる。だから、この歌は簡単な唄だけに唄者の実力が現れる。以前小田原で上間綾乃さんの唄に聞きほれたことがある。古謝美佐子さんの唄も魅力がある。こんどは石垣では饒平名 久乃さんの唄だった。
ちんさぐぬ花は次々と素晴らしい歌い手を生み出す歌なのだと思う。三線の練習曲として、「咲いた咲いたチューリップの花が」とやるより、ちんさぐの花を練習から始められる幸せ。簡単な音色なのだが、これだけ奥深い世界を感じさせる唄に感動する。八重山民謡は基本男が唄う唄のようだ。ちんさぐぬ花は女性の子供に歌い聞かせる歌。石垣島では歌を聞く民謡酒場が急速に増えている。平塚にある沖縄民謡の店にも、石垣に支店を作ったと書かれていた。唄う場があるという事は、石垣に戻る人も増えているらしい。饒平名さんも八重山高校を卒業して、歌手を成る夢を見て東京に出たそうだ。そして、17年頑張ったと言われていた。そして、今はアートホテルのそばの洗濯屋さんで手伝いながら唄を唄っている。とさらりと言われた。唄はそういうものではないだろうか。確かに、夏川りみさんは素晴らしい歌手になられた。石垣の誇りである。でも、こうして石垣で素晴らしい歌を聞かせてくれる人がいるという事は、唄の島石垣の観光の最大の魅力になる。
ちんさぐぬ花、ホウセンカの花。ホウセンカは朱色の花を咲かせる。17世紀渡来のインド原産の花という。だから17世紀以降にできた唄なのだろう。ホウセンカの花で爪を染める風習は広く世界にあるようだ。もしかしたら、琉球王国に日本より早くそうした風習が伝わったのかもしれない。ホウセンカ以外の赤花で染めていた時代があったのかもしれない。八重山の染色の歴史は日本本土よりも古いともいえる。染色を行えば、爪が染まることは常のことだ。耀染まることもあるだろう。小さな子供の爪を赤く染めて、魔から守る風習がそこから生まれたとしても不思議はないだろう。生まれてきた子供が丈夫に育つことを願うしかなかった、時代の話。大切な子供が、親の教えを守るように育って欲しいと願う親心。子供を思う親心が美しく歌われている。親の心が様々であるように、この歌も様々に歌い継がれている。
以前、那覇の三線組合の初心者の唄の練習に行ったことがある。そこでも、ちんさぐの花を練習させてもらった。その時に教えてくれた方の唄も素晴らしいものだった。今回は石垣で三線作り体験というものをさせてもらった。三線は持っているので、いまさら作らなくてもよいのだが、ついやってみたくなり申し込んだ。石垣島八重山観光サービスである。石垣の小学校などで、三線を習う際に使う組み立て式の三線を体験する。簡単なものだ。工夫をすればそれなりにの音色が出る。本来蛇皮を張る太鼓部分はシナベニヤで出来ている。音色はあくまでそれなりであるが、猫がいたづらをしないところである。外に出しておくと、猫が蛇皮を引っ掻きに来て困る。蛇皮は乾燥で破ける消耗品だそうだ。これでいろいろ試してみようと思っている。全体は白木なので、一度柿渋を塗ってみた。なかなか良い雰囲気である。