蘭自然栽培

   

蘭栽培を始めて、30年くらいになる。ビルのベランダで始めたのが最初だ。母親は私が生まれた頃にはやっていたので、50年以上前の事になる。いまのパフィオぺジュラムがシプリペジュームと言われていた頃だ。天使のスリッパとか言っていた。山北に移った頃から、自然栽培を始めた。農薬とか、肥料とか、植え替えとか、をしない。自然栽培を研究してきた。今でも枯れないものが在るわけだから、不可能ではないと考えている。しかし、どうしても問題になるのが、冬の暖房だ。昨年はついに暖房無しで、冬を越した。2重のビニールハウスだ。そこに井戸水を流す。井戸水は15度あるから、保温に使えるのだ。残念なことに、枯れたものが出た。生き残ったものもある。元気がなくなっているのも事実。そこで、今年は本格的に暖房の要らない温室に挑戦する。岩の保温力を使う温室だ。

私の農業の原点は洋ラン栽培にある。洋ランをつくづく、見てくる中で植物の見方、付き合い方を学んだ。自然栽培と言っても、観念的に始めても上手く行くものではない。先ず植物の生理を十二分につかんだ上での事だ。普通に栽培する、つまり一般農法的に栽培する、そのことが出来ないような人に、自然栽培などできるわけがない。そのくらい難しい。ランの自然栽培は、特に何をするという訳ではないが、環境を作り出す。このことに観察力が不可欠。植物が何を望んでいるかがわからなければ、病気が出たり、虫が出たりする。だから薬を使わざるえなくなる。そんなものを使わなくてもいい、活力に満ちた蘭に育てること。化学肥料で見た目だけ、ズクズク大きくした株では、その活力が出ない。やはり、総合的なものだ。

以前、カナダの温室の紹介で、見たものがヒントだ。全体が地下にある形の温室だ。陽射しは天井からだけのようだ。傾斜地で半分くらいは外に出ていた。温室の大きさと同じ規模の岩を積み上げた部屋を作る。その岩の隙間に昼間は風を送る。そして夜は、温まった空気を吸い出す。そんな方式だった。カナダだから、冬は相当に寒いだろうが、それで蘭が冬越しできると、書いてはあった。山北で似た形のものを作くろうとしたが、結局は石がないところだったので、中途だった。そこで今度試みているのは、岩の壁を利用したものだ。今住んでいる家には、大きな石の壁があるのだ。2.7メートル。一つの石が、80cm四方はある。その岩は、久野川が改修された時に困った岩だそうだ。石組みだけで見事に垂直に積み上げられ、コンクリートは使われていない。近所に住む石積みの名人の田中植木さんの仕事だ。

その岩壁を取り込むように、ビニールハウスを作った。越してきた時から構想はあったのだが、ついにやってみた。半分の形だから、相当不思議な、ハウスだ。幅が、8.5メートル奥行きが、2.7メートル。7坪の規模だ。壁の大きさも7坪と言う事になる。南向きでは在るが、西側に家があるので、午後は早く日がかげる条件だ。ビニールハウスは、簡単なものだが、案外に保温力はある。二重張りにすれば、これ以上の保温力のある素材はない。現在は、一重だ。それで、今見てきた、室温が、8.5度。外気が、5度だから、岩が効いているのは確かだ。二重にすれば、10度は越えそうだ。ビニールはクルクルという巻き上げ式で、屋根も壁もなくなるようになっている。夏は遮光シートを使う。岩が暖かいので、この岩に蘭を吊るす計画だ。荒いネットを岩の上から張る。そこに引っ掛けて吊るすようにする。

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