案山子

   


いよいよ田んぼでは穂揃いの時期だ。今年は稲にとっては乱高下する、前代未聞の天気の推移だった。苗代での種蒔き後の低温傾向、田植え後の晴天続きの高温、分結を期待した7月に低温日照不足。それからの高温と晴天。結局それなりの稲作になってきた。かなり軸の太いがっしりした、しかも穂数平均18のスッキリしたいい稲の姿だ。出た穂も大きいほうだ。あれこれ、対応で気苦労はあったが、順調な経過になっている。この時期いつも頭を悩ましてきたのが、スズメ。昨年までの坊所では、ひどい年は3分の一は食べられた。一度頭を下げた穂が、段々に立ち上がった。稲刈りの時に、地面が籾で真っ白だった。この時の精神的ダメージは大きかった。田んぼに行く都度、グアーングアーンと唸るような羽音で一斉に飛び立つ。それでも最初の頃は竹ざおを振り回して、追っていた。もう最後は、田んぼに行くのが辛くて、行けなかった。

狭い田んぼなら、ネットを張る所だが、2反一枚で、ほぼ四角。そんな大きいネットはないだろう。在っても張る技術がない。紐なら色々張った。光るテープ。黄色の蛍光色。赤もやった。黒いビニールの旗もやった。どれも一時の事で、慣れが早いか遅いかだけ。結局は取り付いてしまう。今度の舟原は坊所ほどではないが、それなりにスズメはいる。スズメ対策の結論は、案山子だ。但し、案山子と言っても、風船叔父さんがいい。これを動くようにするのだ。しなう竹の先にぶる下げる。風でゆらゆら、ぐるぐる動く。出来るだけリアルなものがいい。特に重要なことは、立ててやるタイミングだ。案山子で防げるか。と思う所だが、一番効果が高かったのだ。

スズメも毎日の食生活。なかなか賢いし、用心深い。先ず、よそより早く出穂させては駄目。一度餌場にした田んぼからはなかなか離れない。無農薬のお米の方が好き。同じ条件なら、無農薬に来る。そんな馬鹿なと思うかもしれないが、長年の観察結果で、その傾向は間違いなくある。同じ品種になるなら、他所より種蒔きを遅くする、早稲は作らない。と言っても結局は来るので、この他所から回ってくるタイミングを見定める。スズメは、最初は用心深く度胸のある先発隊が来る。何羽かが度胸を決めて食べ始めると、スズメ算で増え始める。早く立てるのは、最悪。勝負は2週間ぐらいだから。ともかく、慣れる前に稲が進むようにする。今年は昨日立てた。穂揃いが19日だったけれど。なかなか来なかったので、立てなかったのだ。

子供の頃村では、秋口に谷間全体のスズメ追いをやった。2キロぐらいある集落のフジヌタ村の一番下から、追い上げるのだ。扇状地上の集落だったから、上に行けば、狭くなる。一番上の大久保境に霞網を一面に張っておく。村総出で声を上げながら、追い上げる。そのスズメの数は、すごい。何千羽だろう。むらの一番上にあった我が家のところを通り過ぎる頃には、あたり一面のスズメが通過して行く。もう少しで霞網の所だとも知らずに、案外のんきそうなスズメ達だった。スズメは甲府の焼き鳥屋で買ってくれると言う事だった。
ついに昨日の朝、隣の田んぼの淵まで来て、偵察隊の30羽ぐらいの群れが様子を伺っていた。油断がならない。最後の頼りが案山子だ。3つ立てた。これを時どきに位置を変える。いかにも、作業をしているように感じさせないといけない。この風船叔父さんの顔がすごいのだが、この顔でスズメが逃げるというが、それはどうだろう。

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