口蹄疫について
畜産をおこなう一人として、衝撃的事件である。直視できないような思いがあり、しばらくこのことを見ないようにした。現地の方々の気持ちを思うと、何も書けない様な気持ちになる。えびの市での移動制限が解除され、収束に向うかに見えた。突如、10日になって都城市、宮崎市、日向市と飛び火する形で、燎原の火は広がった。一日一日、祈るような気持ちで、3例で済むように祈っている。発生農場周辺では、抗体検査をするらしいので、その結果しだいで今後の様子が見えてくる。15日現在都城市では1キロ以内の11農場豚97頭が抗体調査で感染していないことが判明した。何しろこの怖ろしい病気は、豚が感染しウイルス濃度が高まると風に乗って広がる。ドーバー海峡を超えたと言うから、昔流行したと言う口蹄疫とはそもそも感染力が極端に違っている。この何故かウイルスが変異する事が、畜産のあり方に由来しているようで、問題を複雑化している。14日現在289例199,012頭の殺処分対象になっている。
イギリスでは殺処分方式で抑えることになり、60万頭以上が殺処分されたこともある。この背景には家畜は経済動物であると言う事がある。もし、人間にも感染する狂犬病のようなものであれば、優れたワクチンが開発が行なわれていた可能性はある。今のような状況はなかったのかもしれない。だから、口蹄疫のことを考える場合、経済からの視点と、科学的視点が常に混在してくる。ワクチンが開発できないことの要因が、殺処分の方が安いと言う経済から来ている。ワクチンを巨額の開発費をかけて作ったとしても、その利用が清浄国という貿易にまつわる経済問題から、利用できないと言う獣医学とは違う問題が存在する。自然感染とワクチン接種の区別ができないこと。そのため、血清調査による、口蹄疫清浄国の判定ができなくなる。牛や豚にしたら、どうでもいいことではある。
前回12年の宮崎での発生においては、感染原因は中国から麦わらとされた。北海道の同じ飼料を使っている、農家での検出。このときは幸い初期に感染を阻止することができた。発生農家を中心に半径20km以内を移動制限地域、50km以内を搬出制限地域と設定し、域内の全農家について立ち入り調査と抗体検査を実施した。3月21日の一報から6月9日の北海道の終息宣言にいたる経過は、とても参考になる。今回より最初から、厳しい対応をした。。その後原因と特定された中国麦わらに対する、ウイルスの死滅する期間の利用制限などあるのだろうか。何故、前回の経験が生かされなかったのかは、問題がある。今回は国連FAOからの協力要請も断っている。どうも10年間の間に、ウイルスは感染力を増し、日本国は対応力を低下させているようだ。
科学的にいえば、口蹄疫は人に感染するが、発病はしない。これも経済の問題だが、風評被害を考えると、人には感染しないと言い切るのも理解できる。しかし、人間が保菌者になって、感染を広げる可能性はある。特に、全国から現場の防疫体制に疎い人間が対応に集められると、感染を広げるリスクは高まる。宮崎での飛び火的感染の拡大に人間は関与していないか。十二分に調査する必要がある。私なら、発生地に行った人間は農場に入れない。家畜保健所の人間などが、各農家を調査で歩き回るようなことで広げる可能性もある。また、畜産関係者を集めて注意のための、研修会をするようなことも、リスクを高めるばかりである。宮崎ではこの点大丈夫だったのだろうか。