ダライラマ

   

インドでの聖火リレーはどうなるかと心配したが、報道の範囲では、平穏なデモだった。ダライラマのチベットの騒乱状態に対する対応は、宗教者らしい見事なものである。この度渡米途中に日本にも立ち寄り、インタビューに対するコメントも、立派なものであった。従来ダライラマの行動および、言動は宗教者と言うより、チベット亡命政府代表の性格が強かった。中国政府批判も、強烈な所があった。1959年からの50年の亡命政権。13万人の亡命チベット人が背景に存在する。しかし、今回のチベット騒乱に対する対応、言動はむしろ宗教者らしい、見るべき変化がある。先ず、あらゆる意味での暴力を否定している。長年インドと中国の政治対立に翻弄される中。学習した、知恵に満ちている。自身のとるべき態度をよく理解している。暴力を否定した後に、チベット人の文化および教育の尊重、自立を求めている。国家としての独立はあえて求めていない。民族としての存在が、文化的尊厳が保障されることが、大切としている。

中国政府としてはここが難しい所であろう。ダライラマ信仰が、宗教として絶対的なものである以上、文化問題と言われても、単純には受け入れにくい。イスラム原理主義を考えればよく分かる。国家を超えて機能する。宗教の自由は保障すべきは原則論としてある。としても、文化の方が、、国家の権力、それ以上に人間をコントロールして行く。単純な正義側として、ダライラマを持ち上げる、ヨーロッパの姿勢は、もう一つアジア世界の理解不足を感ずる。反中国の政治的意図もある。イスラム社会についても、アメリカの理解不足が、戦闘状態の長期化の大きな原因になっている。西欧のキリスト教社会とは、又別の土壌が存在する事を、深く研究すべきだ。もちろん、西欧が獲得した、思想としての「自由とか、個人主義とか、民主主義とか」は、それはすばらしい理想であり、人類共通の成果ではある。だからと言って、それがあらゆる段階、あるいは状況に、即応することが平和につながるとは限らないこともある。

青蔵鉄道の完成が、チベット民族の危機意識に繋がっているのではないか。漢民族は経済的人種だ。世界の華僑の進出を見ればよく理解できる。生活圏を求めて、何処にでも進出する。チベット自治区に青蔵鉄道が通った、一番の目的は、中国政府のチベット人の軍事的支配にある。と考えるのが自然だ。同時に、インド、パキスタン、の国境線警備を目的としてだろう。2006年に全線開通した。開通して起きたことは、漢民族のチベットへの、ラサへの進出らしい。資本力の違いから、チベット人の経済支配が起きてきている。青蔵鉄道に伴う観光産業は、漢民族が大半を牛耳り始た。そこにチベット人の危機意識が、高まって来たのだろう。日本も同様の事が、起きて来た。拝金主義の蔓延だ。伝統的価値観の崩壊。チベットは経済的支配を受けるだけでない。チベット人の中に起きている。精神的崩壊の現象への危機感の高まりではないか。ダライラマを忘れて、金儲けに走る青年層が現われ始める危機感。

ブラジルでは、若年層の自殺者の増加が言われる。原因はもちろん多様ではあるだろうが、伝統的価値観の崩壊、アメリカ式のグローバリズムの蔓延。ついて行けない、青年が精神的なダメージを強く受けているらしい。チベットで起きていることも、同様の背景を感ずる。過去にもどれとか、ダライラマ的世界が全てであるとは思わない。段階を踏みながら、人権とか、民主主義とか、西欧の獲得した人類の成果を、受け入れるべきだと思う。中国政府が今行っている事は、きわめて危険な綱渡りに見える。無理やりの経済成長の間は、問題の顕著化は起きない。一段落したところで、国内的にも混乱が起きると思われる。今チベットで起きていることは、中国全土の問題である。中国政府としては、ここで対応を誤ることは、国家の大混乱に繋がる。当然日本にも波及することだ。食品汚染でも見せている、中国政府のかたくなな態度は、そうしたことも含めた、深刻な事情の反映と思える。

 - Peace Cafe